鹿児島

GLOCAL MISSION Times 編集部

株式会社オキス 岡本 雄喜さん

副業を受け入れ“井の中の蛙”から脱却!株式会社オキスの副業人材戦略とは

副業人材を活用し、成果を上げている農業法人「株式会社オキス」。辺鄙な田舎の地理だからこそ、副業人材の採用に踏み出すチャンスを得られるたといいます。移住せずに副業をしてもらう近年の副業スタイルにチャレンジしたきっかけや実態について、株式会社オキスの岡本雄喜さんにお話しを伺いました。

辺鄙な地理条件から生まれた乾燥野菜

鹿児島市から高速道路を使って約1時間半。平成18年に創業した株式会社オキスは、森林と農地の広がる大隈半島の中央に社屋を構えています。

同社の母体は「岡本産業」という運送会社。農業生産額が全国2位を誇る鹿児島県では、農産物は格好の配送商品となっていました。しかし、本社と人口が集まる鹿児島市内とは距離があり、商品の輸送には時間も経費もかかります。そこで思いついたのが、野菜の乾燥加工でした。

野菜の不必要な部分をカットして乾燥することで重量が軽くなり、一度に大量の商品を運べるだけでなく、乾燥によって野菜の種類によっては甘みが増し、栄養価も高まります。また、常温で保存可能で調理にも手間がかからず、廃棄ロスも減らせるという、いいこと尽くし。このビジネスに社運をかけ、岡本産業は株式会社オキスを設立。加工販売を本格化させて、着実に販路を広げていくことになったのです。

東京からUターン。人材不足を痛感

乾燥野菜のビジネスモデルを一代で築いた岡本孝志社長の長男の岡本雄喜(現・経営企画部課長)さんは、東京の大学を卒業後、ITベンチャーで3年間勤務し、27歳の時にUターンしてオキスに入社しました。「もともとは自身の起業を夢見ていましたが、ゼロから会社を築くよりも、今あるものを大きくする方が自分の目標に早く近づくと考えました」と、岡本さんは語ります。「当時は社員が5、6名しかおらず、その分、営業から企画、人事、経理まで、なんでもやらせてもらえました。だからこそ、社内に足りないものが見えてきたのです。」

中間管理職の人材不足

岡本さんは、オキスに足りないのは「中間管理職」の存在であることに気づきました。優秀な人材は都市部に流れるため、採用活動に力を入れても、なかなか求めるような人材に出会えません。結果的に、社長が現場に降りてきて、仕事量が過多になることを繰り返していたのだといいます。

この現状を打破するため、岡本さんがネットで見つけたのが「Skill Shift」でした。

Skill Shiftは、東京都港区に本社を置く株式会社スキルシフトが運営する副業プロジェクトです。都市部の人材と地方企業を副業でつなぐことを目的に、「月に1回の面談+普段はオンラインで遠隔サポート」「平均謝礼4万円」という出張型の副業スタイル(

副業正社員)を提案し、2021年1月には登録者数3万人を突破しました。

image003.jpg (140 KB)

応募者の顔ぶれに驚愕

岡本さんには、特に気になる部門が2つありました。一つはネット通販部門、もう一つが営業部門です。「オキスのネットの売り上げは横ばいで、この状態を脱却するためにはスペシャリストの力を借りる必要があると感じていました。また、オキスは商談会で出会った会社へ手あたり次第にアプロ―チする、昔ながらの営業手法を繰り返しており、過去の分析に基づく予測や、将来を見すえた戦略が見えてこなかったことを危惧していたのです。」

そこで、岡本さんは「Skill Shift」を通じて、「Webマーケティング」と「営業分析」の2職種を募集。初めは不安もありましたが、2つの職種で約30人の応募があり、その9割が東京で年齢層もほとんどが20代から30代の人でした。しかも、応募者たちの肩書には、世界的なIT企業や、国内業界でトップクラスのメーカー、有名ITベンチャーなどの名前が並んでおり、夢のような顔ぶれに驚いたといいます。

岡本さんはその中から、Web面接を通じて、2名を採用しました。「応募者には、地域の活性化に貢献したいという想いが強いタイプと自分の力を試してスキルアップしたいタイプがいますが、私が優先したのは後者でした。面接で私たちの話を受け、私たちが可視化できていないことを提案してくれた人たちを選んだのです。」

採用したのは、世界的IT企業でマーケティングを担当している人と、マレーシアに在住しながらフリーランスで活動しているWebマーケティングのプロフェッショナルでした。契約期間は半年間、その間の報酬は月5万円。会社に常駐する必要はなく、チャットやメールでのコミュニケーションのみ。2ヵ月に1回対面式でのミーティングのため交通費を会社持ちで来てもらったといいます。

それでも、成果は大きく、営業担当の方に5年分の販売データを渡したところ、売り上げの構成比、対前年比、既存の顧客と新規の顧客の割合、商品別の割合、何月に何がどれだけ売れるのかといった、あらゆる角度から分析をしてくれたといいます。Webマーケティング担当の方も手腕を発揮し、わずか半年間でネット通販の売り上げが前年比で120%に成長。この成功に手ごたえを感じた岡本さんはその後も、「海外ビジネスの開拓」「自社メディアの構築」など6つの職種で、副業人材の募集を継続し、これまでに7名を採用しました。

「採用した人材の中には、複数の企業で副業をしている人も多く、本業の収入と合わせて数千万円もの年収を稼いでいる人もいました。彼らの副業の目的はお金ではないのです。自分の経験値を増やしたいと彼らは言っていました。だからこそ月5万円ぐらいで引き受けてくれる人がほとんどだったのです。」

もちろん、なかには、失敗と感じる事例もあったといいます。「社内に常駐していないと難しい仕事もあるとわかりました。例えば総務の仕事は、社外秘の内容も多いので、どこまで話していいかの判断が非常に難しいのです。もう1つの反省点は、副業人材の採用数を一度に増やしてしまうと、対応に手が回らなくなってしまったことです。受け皿づくりは、募集する企業側の重要なポイントですね。」

営利目的でないからこそ、客観的な提案ができる

岡本さんは相談相手ができたことのメリットも大きかったといいます。「シンガポールでのネット事業を検討していた時期があったのですが、Skill Shiftを通じて採用した海外ビジネスに強い副業人材に相談したところ、3か月間のリサーチを経て、やめるという判断ができました。これもコンサルに頼んだら何倍ものお金がかかったと思います。副業人材の提案は、基本的に営利目的ではないため客観的な提案をしてくれるように思います。」

さらに、これまで接したことがない企業の人と一緒に仕事ができるようになったことで、社内が活性化したことも副産物でした。「相談すれば、目からうろこが落ちるようなアドバイスをもらえますし、社員の意識が変わり、私自身も非常に刺激を受けました。目指すべき仕事の基準値が上がったと思います。」

鹿屋を肌で感じてもらいたい

オキスでは、副業人材が来鹿する際は、時間があれば、大隅半島を案内することもあるといいます。「会社でミーティングをした後は、宴会を開くのが恒例で、おいしい地元料理と焼酎を囲み、ときには鹿屋市の副市長や地元のリーダーたちも加わります。最後はやっぱりアナログ。鹿屋という土地と人の肌感を感じてもらいたいのです。一緒に飲みながら話せば、鹿屋に対する愛着もわき、その愛着がオキスでの副業に生きると思っています。」

「東京は何でも揃っているけれど、生んでいるものはすくない。鹿屋の方が生んでいるものが多い、といってくださった人の言葉が忘れられません。鹿屋はなんにもない田舎だと思っていましたが、今では、ふるさとは可能性の宝庫だと思えるようになりました。」

大隈半島の肥沃な土壌を活かすため、オキスでは冷凍加工を行える工場を稼働。健康意識や防災意識の高まりとともに乾燥野菜の需要そのものも拡大しています。

「民間企業型の地方活性化の解決モデルを作りたいと思っています。一次産業を中心に地方の資源の活性化の実現のためにも、副業人材が持つスキルやノウハウは欠かせません。」

image005.jpg (157 KB)

副業人材を受け入れることで『井の中の蛙』にならずに済むという岡本さん。「副業はお互いに負担が少ないですし、今までの求人では絶対に会えない人たちと出会うことができます。地方企業の成長のための大きなチャンスなのです。」

8852_05.jpg (186 KB)

100haの直営農場と120haの連携農家から仕入れた約二十種類の農産物を、自社工場で加工。東京を中心とした量販店や、健康食品メーカーの機能性原料として供給されるほか、自社サイト「薩摩の恵(https://shops.okisu.co.jp/)」を通じてネット販売もされています。

(「Glocal Mission Times」掲載記事より転載 )