昨年末、第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が改訂されました。新型コロナウイルス感染症の拡大を機にテレワークの普及と地方への関心が高まりをみせていますが、地方への新しい人の流れを創出し、移住や企業の移転につなげる支援を行う「地方創生テレワークの推進」も盛り込まれています。昨年4月から政令指定都市や中核都市について「移住と暮らし」という視点からさまざまな都市の魅力と実態をお伝えしてきていますが、今回は静岡県「静岡市」です。地方都市への移住を考える上で参考にしていただければと思います。
豊かな自然と都市機能に恵まれ東京や名古屋へ60分
静岡市では、昨年11月から市内のシェアオフィスやコワーキングスペースを利用して同市で事業を開始する法人に対し、利用料及び宿泊費等の一部助成を実施するMove To しずおか「新しいビジネス様式」支援事業が行われています。企業の立地促進及び企業誘致の推進を図ることを目的に新しい働き方となるテレワークの普及に伴った地方への拠点分散及び移転ニーズを取り込むためのもので、東京圏のIT系企業4社が既に申込済です。3月31日までの期限ですが、2月中の申し込み手続きが必要となります。同市は令和3年度も同事業を継続する意向です。
(出典:静岡市HPより)
さて、静岡市を抱える静岡県はふるさと回帰支援センターの「移住希望地ランキング」では常に上位にランクインし、2019年も3位。一方、静岡市は全国のビジネスパーソンを対象に「快適な暮らし」や「生活の利便性」、「生活のインフラ」など8分野で調査した日経BP総合研究所の「住みよい街2020」では都道府県庁所在地で21位でしたが、2015年には同市の保護者の視点に立った子育て支援が高い評価を受け、「共働き子育てしやすい街」では1位でした。
太平洋ベルト地帯のほぼ中間に位置し、静岡県の東西間でもほぼ中央の静岡市は、葵区、駿河区、清水区の3区で構成される人口約70万人の政令指定都市で県庁所在地です。駿河湾から日本平、静岡平野や清水平野を経て赤石山脈の県境まで南北に広がります。車で20分も走れば駿河湾や日本平など海・山・川の自然を満喫できる一方で、自転車でまわれるコンパクトな街づくりが強みのほか、生活に必要な機能がそろった快適性が移住者にも人気です。
静岡市は全般的に温暖な太平洋側気候で、春・夏・秋・冬と四季がはっきりしていますが、夏はフェーン現象により気温が上昇して暑さが厳しくなる時もあります。冬は乾燥して晴天が多く、平地では雪はほとんど見られません。年間の降水量は1809.1mm、日照時間の年間合計値は 2179.2時間で、1年を通して天気に恵まれています。静岡市の1981年から2010年までの平均気温は下表のように16.4度で、2020年は17.5度と上がってきています。
【静岡市の平均気温(1981~2010年)】(資料:気象庁資料を基に筆者作成)
静岡県内の空路としては、静岡市中心部から約30kmの距離の牧之原市と島田市に跨る土地に静岡空港(富士山静岡空港)があります。静岡駅からはアクセスバスで約50分です。国内線は全日空が運航する新千歳、那覇路線に静岡空港を拠点とする地域航空会社のフジドリームエアラインズが運航する札幌、出雲、福岡、鹿児島などの路線があるほか、国際線は韓国や中国、台湾などに就航しています。
【静岡空港の乗降客数の推移(2019年)】(資料:国土交通省資料より筆者作成)
JR静岡駅からは1時間に1本の間隔で運行する東海道新幹線で東京までも名古屋へも60分と通勤・通学も可能なほか、東名高速道路や新東名高速道路も通っており、東京へは120分とアクセスが大変便利です。静岡市内の公共交通機関は、JRのほかに私鉄の静岡鉄道、そして路線バスは、ほぼすべての居住地区を網羅し、市民の足として親しまれていますが、中心部は平地で地下に駐輪場も整備され自転車で通勤・通学する人も多い街です。
【静岡駅の1日平均の乗車人員の推移】(資料:国土交通省資料より筆者作成)
ホテル建設や再開発等の商業地やIC近い工業地が上昇
2020年3月に国土交通省から発表された静岡県の公示地価は、中心市街地の需要の高まりから商業地が0.1%上昇した一方、住宅地は0.7%下落。工業地は12年ぶりに0.1%の上昇でした。繁華街を抱えた静岡市の商業地は、ホテル建設や再開発のほかオフィス需要も堅調で1.0%上昇。工業地では、アクセスが良い東名高速道路の日本平久能山スマートICに近い駿河区が2.2%上昇しています。
【2020年の公示地価の変動率】(資料:国土交通省資料より筆者作成) ※カッコ内は前年実績
静岡市の事業所数は約3万6千、従業員数は約34万人ですが、全国の市町村ランキングでは事業所数が16位、従業員数で18位、東海圏では名古屋市、浜松市に次いで3番目です。同市には第1次産業から第3次産業まで多彩な産業が集積していますが、産業別の市内総生産(2020年度第1四半期)では、「製造業」の22.7%を筆頭に、「不動産業」の14.3%、「卸売・小売業」の9%と続いており、製造業では「食料品」が5.1%でトップです。
【静岡市の事業所数・従業員数】(資料:「平成28年経済センサス」より筆者作成)
静岡市では、同市の2020年から2022年にかけての「第2期総合戦略」において、「人口活力の維持及び持続可能なまちの実現」を目標に掲げ、将来にわたりにぎわうまちの中、主体的に活躍する市民により、活発な都市活動がなされている都市を目指すとしています。戦略2の「新しい『ひと』の流れを呼び込む」では、安心移住に向けた受入体制整備事業やテレワーカー移住促進事業など首都圏からの移住・定住を促進しています。
【第2期総合戦略(2020~2022)】(資料:「静岡市令和2年度予算の概要」を基に筆者作成)
なお、2018年度から「仕事はそのまま、住まいは静岡市!」をキャッチフレーズにテレワークを活用した移住促進事業「お試しテレワーク体験事業」が実施されています。首都圏企業や個人事業者を対象にシェアオフィスやコワーキングスペース等の施設利用料、交通費、宿泊費の一部を補助するものです。さらに、新たな働き方として注目されているワーケーションを取り込み、関係人口の創出・拡大を目的として、2020年10月から同事業を拡充し、ワーケーション施設の利用料も対象に。2018年度から2020年度までに39社105人が利用し、2020年度はIT系やスタートアップの首都圏企業3社が市内へのサテライトオフィス進出を果たしています。
(出典:「コテラス七間町」CSA不動産より)
子育て支援が評価受け「共働き子育てしやすい街」1位
静岡市の社会動態は、2013年から2016年の4年間は3,289人の社会減でしたが、2017年から2020年の4年間は351人の社会減と大幅な抑制につながっています。2015年に同市が全国の市町村に先駆けて東京・有楽町の「ふるさと回帰支援センター」内に設置した相談窓口の拠点「静岡市移住支援センター」では相談員2名が対応していますが、同センターを経由して2017年度から2020年度(2021年1月末時点)の移住者は約260人に上るといいます。
【静岡市の「人口動態」の推移】(人)(資料:静岡市の「人口動態」を基に筆者作成)
静岡市の移住・定住情報サイト「いいねぇ。静岡生活」では、住まい、仕事、子育てなどの情報や移住までのステップや移住者の体験談などを掲載しています。なお、市内への移住・定住の促進、中小企業の人出不足の解消を目的に東京圏(東京23区に5年以上の居住者又は5年以上の通勤者)から静岡市に移住して就業または起業した場合に最大100万円(世帯:100万円、単身:60万円)の補助金を支給する「静岡市移住・就業補助金」を令和元年度から開始していますが、令和2年度は既に申込みが終了し、3年度は4月1日より募集開始予定です。
充実した子ども医療費の助成や子育てヘルパーの派遣などが評価されているほか、市内14ヵ所に設置された「地域子育て支援センター」では、保育の経験を積んだ「子ども未来サポーター」が、子育て支援サービスの紹介や育児相談などを行い、育児・入園に悩む保護者の方を細やかに支援しています。年齢・目的別の行政制度から家族で参加できるイベント情報まで網羅する静岡市子育て応援総合サイト「ちゃむしずおか」も便利です。
【静岡市「子育て安心プラン実施計画」】(資料:厚生労働省資料より筆者作成)
静岡県が若者から高齢者や子育て女性の就労を支援する「しずおかジョブステーション」は静岡市にも設置されているほか、子育て中の方や将来仕事と子育ての両立を考えている女性に向けた「マザーズハローワーク静岡」では、就職相談と職業紹介が行われています。静岡市女性会館でも40代以下の女性を対象に、就職・転職に関する相談やキャリアアップに関する相談を女性のキャリアコンサルタントが受け付けています。
【静岡市内の生活情報】(資料:移住・定住情報サイト「ゆとりすと静岡)より筆者作成)
静岡市では夜間における急病患者に対する医療を確保するために静岡市急病センターが開設されているほか、二次救急医療については、全国最高水準の小児科医療を提供する静岡県立こども病院をはじめ、県立総合病院、市立静岡病院、静岡赤十字病院、静岡済生会総合病院、静岡厚生病院、市立清水病院、桜ヶ丘病院、清水厚生病院などが当たり、ドクターヘリは順天堂大学医学部附属病院が静岡市から東の静岡県東部を担当。
森記念財団都市戦略研究所が経済規模や文化度などを都市力として109都市を対象にした「日本の都市特性評価」によれば、静岡市は15位、交通アクセス分野では20位、文化交流分野で21位、生活居住分野が22位、研究開発分野も26位、と各分野で非常にバランスが良く、安定した高い評価を受けています。環境の「快適性」が高評価のほか、「育児・教育」や「生活の余裕度」なども平均を上回る評価を得ています。
「商都」とも呼ばれる静岡市は、商業・観光業・サービ業などの第3次産業が発達していますが、昔から「ものづくりのまち」ともいわれるなど製造業も盛んですし、清水や焼津など漁港や縦横に走る高速道路網などのインフラを活かした「物流のまち」でもあり、さまざまな業種がバランス良く発展しています。ここ数年、新しい人の流れを呼び込む戦略により首都圏等からの企業進出や移住・定住を促進していますが、「新たな働き方」に対応し、美しい自然環境に恵まれ、温暖な気候の中で心豊かに生活できる静岡市は地方都市への移住を考える上で有力な候補地の一つといえるのではないでしょうか。