コラム 福岡

亀和田 俊明

【地方都市の魅力】福岡県福岡市 成長を続けているアジアのリーダー都市

新型コロナウイルスを機に地方移住への関心が高まるなか、環境省は全国34ヵ所の国立公園などで仕事と休暇を両立する「ワーケーション」を実現できるよう宿泊施設などへのWi-Fiのネット環境や設備改修などの整備を行うとしていますが、ワーケーションの広がりを機に移住者などが増加することを期待する自治体もあります。半年間にわたり12の中核都市について「移住と暮らし」という視点からさまざまな都市の実態をお伝えしていますが、地方都市への移住を考える上で参考にしていただければと思います。10回目は福岡県の「福岡市」です。

「住み良い都市」ランキングでアジア4位、海外で高評価

現在、「福岡コロナ警報」が発動されている福岡県ですが、福岡市では休業・時短要請への協力店舗等への家賃支援(申請期限は9月30日まで延長)、市民生活に必要なサービスを安全に提供する休業等要請対象外施設への支援(申請期限は9月30日まで延長)、宿泊事業者への支援(「福岡STAY安全安心宣言」広報ツールの配布)、飲食店への支援(道路等の屋外空間を利用したテラス営業等の規制緩和ほか)など独自の緊急経済支援が行われています。

さて、第10回で取り上げる福岡市は全国のビジネスパーソンを対象に「快適な暮らし」や「生活の利便性」、「生活のインフラ」など8分野で調査した日経BP総合研究所がまとめた「住みよい街2019」で、都道府県庁所在地では1位でした。また、UJIターン別移住希望地ランキング(2017年)において、Uターン3位、Jターン2位、Iターン6位と上位を獲得していることから、都会暮らしの長い人でも移住しやすい環境であることが分かります。

福岡市は福岡県の西部に位置する県庁所在地で、人口は約160万人。市街地を取り囲むように博多湾と立花山などの山々が広がっており、都心と海や山が近くにあるため豊かな自然環境を楽しめます。英国雑誌「MONOCLE」の「住み良い都市ランキング」ではアジア4位(2018年)と海外からも高評価を得ています。福岡空港まで地下鉄で数分の博多駅周辺と繁華街としてにぎわう天神駅周辺が福岡市の代表的な2つの顔です。

同市は日本海側に面していますが、温暖な太平洋側気候に分類される気候です。夏季に降水量のピークがありますが、玄界灘を流れる対馬海流の影響で冬季も温暖。年間を通じて比較的穏やかな気候に恵まれていますが、初夏から初冬までの台風発生シーズンに台風が通過するときは嵐に見舞われるなど天候が悪化します。福岡市の1981年から2010年までの平均気温は下表のように17.0度で、2019年は17.9度と上がってきています。

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(資料:気象庁資料を基に筆者作成)

福岡市には、博多駅から地下鉄でも15分ほどの距離にある日本有数の発着回数を誇る「アジアの玄関口」の福岡空港があります。街の中心部近くに空港があるため、飛行機で気軽に県外へ移動できるのも魅力で、東京までも1時間40分ほどです。韓国・釜山との定期航路を有する博多港や九州の玄関口である博多駅のほか、九州各地へのバス路線の発着場所となる天神のバスターミナルなど国内屈指の交通アクセスを誇っています。

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(資料:国土交通省調査より筆者作成)

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(資料:国土交通省資料より筆者作成)

公共交通の鉄道はJR、西日本鉄道のほか、福岡市地下鉄3路線が整備されています。市内の大部分は西鉄バスによる運行で100種類を超える系統があるほか、西鉄バスの博多~天神間を走る「100円循環バス」もあります。電車、バスが市内全域を網羅する充実した交通ネットワークにより都心と変わらない感覚で市内を移動でき、三大都市圏と比べて通勤時間が短いのも特徴です。

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(資料:福岡市交通局HPより筆者作成)

商業地は16.5%の上昇で再開発にオフィス需要も活況

3月に国土交通省から発表された福岡市の公示地価は、商業地が16.5%と上昇して都道府県所在地で2位でしたが、観光客や買い物客の多いJR博多駅がある博多区と天神のある中央区に集中していました。新規開業のホテルも多いほか、博多駅周辺では容積率を緩和する再開発促進策「博多コネクティツド」が動き出していますし、天神地区では2024年末までの10年間を期限に再開発促進策「天神ビッグバン」が進行中で、オフィス需要も活況を呈しています。

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(資料:国土交通省資料より筆者作成) ※カッコ内は前年実績

政令指定都市の中で食料物価が安い都市1位、総合物価の安さで2位の同市ですが、さらに家賃も東京都の半分以下と物価の安さも住みやすさにつながっています。中心地の天神はデパートや個性的な飲食店が多く、全長約600m、約150店舗が並ぶ「天神地下街」があります。居住エリアは商業施設などが多く、交通アクセスの良い博多区や中央区が人気ですが、閑静な高級住宅街を希望するなら南区や早良区、近年の注目エリアは西区の姪浜駅周辺といわれます。

また、福岡市の事業所数は約7万8千、従業員数は約87万人ですが、事業所数、従業員数ともに全国の市町村ランキングで5位、九州ではトップです。2016年の事業所数の産業別構成比では、福岡市も三次産業が約9割を占め、「卸売・小売業」「専門・科学技術、業務支援サービス業」の割合が大きいものとなっていますが、国の特区制度を活用して「スタートアップ都市宣言」を行っており、新規開業率が全国首位になる成果を上げています。

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(資料:「平成28年経済センサス」より筆者作成)

福岡市では、次世代に誇れるまちへ、令和2年度「FUKUOKA NEXT」の取り組みをさらに加速させるといいますが、「元気なまち、住みやすいまち、成長可能性が高いまち」をさらに発展させ、「都市の成長」と「生活の質の向上」の好循環を確固たるものとし、あらゆる人が「生活の質の向上」を実感できる「人と環境と都市活力の調和がとれたアジアのリーダー都市」の実現を目指すとしています。

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(資料:「福岡市令和2年度の予算案の概要」を基に筆者作成)

同市のスタートアップについては政令指定都市で唯一、5年連続となる開業率7%超えなどすそ野が広がってきていますが、日本最大級のスタートアップ施設「Fukuoka Growth Next」を中心に福岡流スタートアップエコシステムを確立していくとともに、海外のスタートアップ支援拠点との連携などでグローバルマーケット進出も支援していくといいます。今年度も「グローバルスタートアップ推進事業」の予算が計上されています。

移住人気はオン・オフも充実させる自然と都会の利便性

福岡市の転入者数は、前年に比べ2,343人増え、転入超過数も2,053人拡大していますが、転入超過数は、女性が男性のほぼ倍となっています。同市では移住・定住者に対し、家の改修や設備、賃貸、医療、福祉、子育てなどにおいてさまざまな支援制度を設けているほか、移住体験も実施。東京と福岡には「ふくおかよかとこ移住相談センター」を開設し、福岡県 移住・定住ポータルサイト「福がお~かくらし」では移住情報を提供しています。

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(資料:総務省統計局の「住民基本台帳人口移動報告」を基に筆者作成)

同市では乳幼児親子がいつでも気軽に訪れ、自由に遊ぶことができる子育て支援活動の拠点「子どもプラザ」や放課後の子どもを預かる「留守家庭子ども会」など子育て支援が充実しています。WEBサイト「ふくおか子ども情報」では手当から助成金、子育てイベントや育児サークルまで子育てに関するあらゆる情報を掲載するほか、「子育て情報ガイド」も発行。教育・保育サービスの利用に関する相談は「福岡市子育て支援コンシェルジュ」が受け付けています。

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(資料:福岡市HPより筆者作成)

働きたいと思っている子育て中の女性を対象に「福岡県子育て女性就職支援センター」では、就職支援に関する情報がホームページに掲載されているほか、就業相談や保育などの情報提供、就職や仕事に役立つセミナーの開催、仕事の斡旋なども行っています。また、就職・就業に関する相談機関等の情報については、福岡県のホームページに掲載中の「働く女性のハンドブック」が提供されています。

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(資料:厚生労働省資料より筆者作成)

福岡市内では、救急医療情報センターが24時間体制で最適な医療機関を案内しています。時間外には急患診療センターや5ヵ所の急患診療所で、二次救急医療体制では13病院で対応が図られているほか、福岡大学病院と九州大学病院には救命救急センターが設けられており、福岡大学病院はドクターヘリやドクターカーを保有しています。高機能病院や地域の基幹病院が複数あり、急性期医療の提供能力が高く、幅広い医療機関が整っています。

森記念財団都市戦略研究所が経済規模や文化度などを都市力として72都市を対象にした「日本の都市特性評価」によれば、同市は総合ランクでは京都市に次いで2位。特に経済・ビジネス(ビジネスの活力)は1位。文化・交流(発信実績)は3位、交通・アクセス(移動の容易性)も3位、文化・交流(交流実績)が4位、研究・開発が6位と、成長を続けるバランス型都市として高い評価を得ています。

人口増加率が高い福岡市は、新幹線はもちろん、空港からのアクセスも良く、自然が豊かな上に都市機能が凝縮しているコンパクトシティのため、オンもオフも充実させることのできる移住地として高い人気を誇りますが、現在、起業する人たちにとっても行政の支援などを手厚く受けられるメリットの多い土地として創業が活発で、ベンチャー企業、スタートアップには最適な環境ともいわれ、クリエイターやエンジニアなどの職種の移住者が多い街でもあります。

アジアのリーダー都市を目指す福岡市は、経済やビジネスの中心地であるほか、国内有数の住みやすい街として知られています。再開発などにより駅周辺や中心部にもにぎわいが生じていますが、ベンチャーや起業、成長産業の支援などにも熱心で、活力が満ち溢れ、人やビジネスを惹きつけるほか、住民は多様性に対する寛容度が非常に高く、地方都市への移住を考える上で福岡市は有力な候補地の一つといえるのではないでしょうか。

(「Glocal Mission Times」掲載記事より転載 )