コラム 石川

亀和田 俊明

【地方都市の魅力】石川県金沢市 住みやすさ備えた幸福度全国4位の歴史都市

7月に政府は地方創生に関する基本方針を閣議決定しましたが、新型コロナウイルスの感染対策として、移住先での在宅勤務や休暇先で仕事するワーケーションを推進し、東京に本社を置く企業などへ地方でのオフィス開設や従業員の地方移住を促し東京一極集中の是正を目指すといいます。半年間にわたり12の中核都市について「移住と暮らし」という視点からさまざまな都市の実態をお伝えしていますが、地方都市への移住を考える上で参考にしていただければと思います。9回目は北陸・石川県の「金沢市」です。

東京まで新幹線で2時間半、生活圏がコンパクトな街

現在、全国的に「新型コロナウイルス」の感染が拡大しつつありますが、金沢市では、6月27日に金沢中心商店街まちづくり協議会が、「プレミアム商品券」の販売を行いました。1万円で1万2千円の買い物ができるチケット500枚が長蛇の列ができるなか完売し、初回の販売分と合わせて1千枚を売り切ったといいます。商品券は香林坊、片町、竪町、柿木畠、広坂の5商店街に加盟する百貨店や商業施設など約300店で9月30日まで利用できるものです。

さて、第9回で取り上げる金沢市は全国のビジネスパーソンを対象に「快適な暮らし」や「生活の利便性」、「生活のインフラ」など8分野で調査した日経BP総合研究所がまとめた「住みよい街2019」で全国341自治体の中で26位でした。一方で「生活」「雇用」「安全」「医療」など40の指標から幸せ度をランキング化した「幸福度ランキング」では全国4位(2018年)を誇る暮らしやすさで住まいや職場、学校など生活圏がコンパクトに整った街という評価です。

金沢市は本州の日本海側、石川県のほぼ中央に位置し、南部を山地が占め、北部は金沢平野を経て日本海に臨む、江戸時代に加賀藩の城下町として栄えた歴史的風情が多く残る街並みの人口約47万人の北陸地方最大の都市です。都市インフラも充実しており、居住エリアとビジネスエリア、商業エリアが隣接した街のコンパクトさが暮らしやすいと移住者にも評判ですし、自然と文化的な環境に恵まれ、「歴史都市」や「創造都市」として認められています。

金沢は「弁当を忘れても傘忘れるな」と言われるほど雨が多い街で、石川県の年間降水量は全国で第4位ですが、四季の変化がはっきりと感じられ、春や夏は晴天が続き、冬は曇りや雨の日が多く積雪もある日本海側気候です。金沢市の1981年から2010年までの平均気温は下表のように14.6度で、2019年は15.8度と上がってきています。日照時間の年間合計値は 1,680.8 時間で、他の主要都市と比べても短くなっています。

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(資料:気象庁資料を基に筆者作成)

金沢駅から車で40分ほどの距離にある小松空港から東京までは飛行機で約70分。2015年の北陸新幹線開通により首都圏へのアクセスが便利になった陸路は、金沢~東京間の移動は最短で約2時間30分と各段に短縮され、日帰りでの往来も普通となりました。全国の主要都市とは航空路線と鉄道で結ばれており、アクセスも容易です。石川県内においても里山海道や北陸自動車道をはじめ、能登半島や白山麓、加賀などへの道路網も充実しています。

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(資料:国土交通省調査より筆者作成)

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(資料:金沢市資料より筆者作成)※IRいしかわ金沢駅の乗車人員については、北陸新幹線、北陸本線、北陸鉄道浅野川線からの通過人員を含む。

同市内の公共交通機関は、JRのほかに北陸鉄道の石川線と浅野川線。また路線バスのほか、観光スポットを巡回するまちなか周遊バスや郊外を巡回する地域コミュニティバスなども運行されています。駐車場配置適正化区域を全国で初めて導入した都市ですが、まちなかへの過度なマイカー流入を抑制するほか、バス路線の段階的再編や交通結節点の機能を強化。交通ネットワークの再構築、以前から取り組む街に適応した新しい交通システムの導入も待たれます。

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(資料:金沢市資料より筆者作成)

ホテルの開業など相次ぎ商業地は5.5%と6年連続上昇

3月に国土交通省から発表された石川県の公示地価について、全用途の平均変動率はプラス1.8%となり、4年連続でプラスとなりました。商業地は1.9%の上昇でしたが、金沢市では5.5%と前年度比1%の伸びで、6年連続のプラスです。同市では北陸新幹線開業以来、金沢駅周辺などを中心にホテルの開業が相次いでいるほか、中心部の片町では約13.6%超えの上昇を見せました。なお、住宅地は前年に比べ倍増しています。

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(資料:国土交通省資料より筆者作成) ※カッコ内は前年実績

北陸最大の商業都市である金沢の駅前や片町・香林坊など繁華街にはファッションビルや老舗店も多くありますが、鼓門側に比べ地味目だった金沢駅西広場には、同市が安心安全で快適な歩行空間の創出を目的に整備を進めていた歩行者専用道路が完成しました。高架沿いと今月開業したハイアット系ホテルなど複合施設クロスゲート金沢まで雨に濡れないよう屋根付きの通路や円錐形の大屋根が設けられて利便性が高まり、今後のにぎわいが期待されます。

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金沢駅西口に開業した複合施設クロスゲートの完成で今後のにぎわいに期待

金沢市の事業所数は約2万7千、従業員数は約25万人ですが、事業所数、従業員数ともに全国の市町村ランキング22位、北陸でトップ。2015年の就業者の産業別構成比では、「卸売業・小売業」(17.3%)が最も多く、「製造業」(12.9%)、「医療・福祉」(12.6%)と続いていますが、現在では工作機械や食品関連機械など多様な機械工業が発展しています。IT関連産業も盛んな上にアパレル産業、出版、印刷工業、食品産業など多彩な産業構造を有しています。

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(資料:「平成28年経済センサス」より筆者作成)

重点戦略として「世界の交流拠点都市・金沢」を掲げる金沢市では、令和2年度は地域経済の活性化に向けて、価値創造拠点及び工業団地の整備を進めるとともに、中小企業の経営強化、働き方改革等に取り組むほか、農林水産業の振興に努めるといいます。また、外環状道路の整備や都心軸の再整備、交通ネットワークの充実など発展基盤の整備を進めるとともに、市民生活と調和した持続可能な観光の振興及び移住・定住の促進に取り組むとしています。

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(資料:「金沢市令和2年度の予算ポイント」を基に筆者作成)

「世界の交流拠点都市」を目指している金沢市は、「技術力に裏打ちされた新たな産業の創出」では価値創造拠点の整備を図るほか、金沢クラフトの発信強化を推進し、「まちの品格を高める学術文化の醸成」で学術・コンベンション機能の強化や文化・産業の活用・発信、「観光を軸とした交流の活発化」では、グローバル観光への対応強化等、「新幹線時代に即応した交通基盤の整備」は、国際物流等の拠点整備や都市内交通ネットワークの確立、「あらゆる世代に対応した新たなコミュニティの形成」では、市民交流・人材育成機能の強化を推進していくといいます。

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子育て世代に優しく、共働きに安心の県で最も人気の街

わずかに転出超過の状態にある金沢市はUIJターンを推進していますが、移住者の一般居住区域における住宅取得支援やまちなかを含む居住誘導区域での住宅支援制度を創設しているほか、金澤町家を活用した居住ニーズも高まっていることから総合相談窓口を通じ移住・定住の促進も図っています。また、金沢市移住ポータルサイト「金沢に住もう。」では、暮らしや就労環境にまつわる情報、移住までのステップや移住者へのインタビューなども掲載しています。

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(資料:総務省統計局の「住民基本台帳人口移動報告」を基に筆者作成)

「かなざわ子育て夢プラン」など子ども・子育て支援施策を推進する同市には112の認可保育所と認定子ども園があり、待機児童数はゼロを継続中で、幼少期における子育て支援が充実しているため、共働き世代にも安心の環境です。子育てに関するさまざまな情報を一元的に提供する「金沢子育てお役立ちBOOK」及び「金沢子育てお役立ちウェブ(のびのびビ~ノ)」ではイベントや託児情報など女性に役立つ地域情報を提供するほか、子育てアプリの配信も行っています。

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(資料:金沢市HPより筆者作成)

石川県は子育て支援が充実しているため女性が働きやすく、女性就業率は全国2位(2015年)ですが、同県が運営する「女性ジョブサポート石川」では就職・再就職をサポートし、石川労働局が運営する「マザーズハローワーク金沢」ではキッズコーナーを併設した相談窓口を開設し、就職支援を行っています。金沢市でも女性の就職・再就職、働く女性同士のネットワーク形成、女性ロールモデル共有など女性が活躍するための施策の充実を図っています。

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(資料:厚生労働省資料より筆者作成)

全国の中核都市48市の中で病院の病床数は4位(2018年)、医師数も3位(2018年)と上位にあって医療体制が充実。市内では金沢広域急病センターに休日夜間急患センターが設けられているほか、石川県立中央病院に救命救急センター、金沢大学附属病院、金沢医科大学救急医療センターでも三次救急医療に対応が図られています。また、2018年9月からは石川県立中央病院を基地とし県内各地へ最大40分で到着するドクターヘリが運航を開始しています。

森記念財団都市戦略研究所が経済規模や文化度などを都市力として72都市を対象にした「日本の都市特性評価」によれば、加賀百万石の城下町として全国的な認知度を誇る金沢市は総合ランクでは9位、特に文化・交流(発信実績)で2位、生活・居住(居住環境)は6位、文化・交流(ソフト資源)で8位、文化・交流(ハード資源)において9位など生活・居住面や文化・交流面で高い評価を得ています。

また、野村総合研究所の「成長可能性都市ランキング」によると、同市は総合ランクでは18位なものの、「創業・イノベーションを促す取り組み」では7位でした。実際に起業家の誘致や発掘・育成の促進など自治体の創業支援も充実していますが、昔からの粘り強く創意工夫を重ねる職人気質にあふれているという背景もあり、イノベーションにより独自産業と雇用が創出される風土などスタートアップビジネスにも適している街といえそうです。

金沢では独自の技術を確立して全国シェア1位を誇るニッチな有力企業が数多く存在している点も特徴ですが、近年では映像やデザインなどクリエイティブ産業で活躍する企業や人材も増えています。首都圏に加え関西圏からの移住促進、若年者の流出防止を掲げる同市は、移住・定住に向けての支援も手厚い上に若い世代にも優しく、UIJターン世帯の呼び込みを促しているので、地方都市への移住を考える上で有力な候補地の一つといえるのではないでしょうか。

(「Glocal Mission Times」掲載記事より転載 )