コラム 全国

木下 斉

【アフターコロナ】今、地方に求められる新たなサービス提案と行政改革

ようやく全国的な緊急事態宣言が解除され、各地域での経済活動が戻ってきています。これから段階的ではありますが、新たな働き方に応じた人の動きも活発化するでしょう。それらを前提として、地方は新たな働き方、暮らし方にどう対応すべきなのか。今回はそんなテーマに迫ります。

リモートワークによって変わる居住と就業の物理的関係

今回のコロナショックを受け、都内で大きな変化があったのは「働き方」です。ここ数年、働き方改革と謳いながら、「残業ゼロ」といった的外れなことばかりが進められてきたわけですが、コロナショックによってようやく毎日の通勤、オフィスワークなどの根本的なモデル変革へようやく向き合うようになったと言えます。

東京都庁が5月11日に発表したテレワーク導入に関する調査によると、テレワーク導入の企業は3月には24%なのに対して、4月には62.7%に上昇したとあり、急速にテレワークが導入されていることがわかります。ビックローブが行った調査では、リモートワークについて「定着する」との回答が19.1%、「一部では定着する」との回答が64.8%となっています。

これまで多くの会社員が毎日費やしてきた「通勤」という時間も、テレワークであれば一切消滅します。これまでの様々な統計資料では通勤も仕事の範囲と定められていましたが、本来通勤時間は単なる移動時間であり、生産力を生み出す行為ではありません。工場など現場に行かないと生産活動ができない場合などもありますが、オフィスに行かなくてもできるのであれば、移動時間を削減することは労働時間あたりの生産性を高める上で極めて有効な方法でもあります。技術的にはこれまでも可能であり、一部企業での導入は行われてきたわけですが、コロナショックで明瞭なインセンティブが発生し、多くの企業が採用するようになっています。

「全国及び 47 都道府県毎の生活時間相互の関係の傾向分析(内閣府経済社会総合研究所,2010)」によると、特に通勤時間は地方よりも東京、神奈川、埼玉、千葉などにおいては、全国平均である78分を超えて、100分前後の数値となっています。東京で働く人々は全国的にも通勤時間が長い傾向にあると言えるでしょう。これが今回のテレワーク導入で大きく変わろうとしています。

さらに言うと、オフィスにいれば上司、同僚に話しかけられたり、電話が鳴るなどで集中力が途切れてしまうこともあるものです。しかしテレワークになればこのような邪魔も入らず、自分の作業に集中できるわけです。

ただし今回は学校も休校していることなどから、上司や同僚の代わりに子供や配偶者など家族が自宅にいるため、集中できないという声もよく聞きます。そもそも都市部のマンションなどはテレワークを前提とした間取りになっていないものがほとんどです。さらに、自粛期間を終えたとしても、自宅以外に仕事場を確保するのが難しいケースの人が多いのではないでしょうか。

完全にテレワークを導入する企業も出てきていますが、多くの企業では5日の勤務日のうち、2日3日をテレワークにするといった形でオフィスワークと組み合わせていくことになることが予想されます。もしくは2週間はテレワークで仕事をするなど期間を決めて、地方にステイしながら仕事と遊びを両立するワーケーションというスタイルの選択肢も出てくるでしょう。

今後テレワークが定着していく上では、このような生活様式の変化が考えられ、地方ではそれらの都市部会社員などに向けた新たなサービス事業の市場が既に生まれ始めています。

既に進んでいる、新たな郊外居住・マルチハビテーション

ただし、このような話をすると、即座に地方移住者が急増することを期待する論調もあるのですが、事態はそうシンプルではありません。

都市部でのワークタイムというのもゼロになるのではなく、オフィス勤務中心の一部の社員がテレワークも可能になる一方で、週に何度か、場合によっては月に何度かはオフィスに行く必要があるという状態が現実解だと考えるならば、おのずと都市圏內での郊外を選択する人が多くなるでしょう。

ここ数年、小田原、鎌倉、逗子といったあたりに住まいを構えつつ、都内で働くというスタイルも増加しています。週に何日かは東京へ通勤する必要があるためアクセスの良さは担保しながらも、自然が好きでできれば東京のど真ん中に住みたくないという人にとっては、それらの都市に住まいを構えるというのも現実的だったわけです。東京と千葉に住まいを持つ「デュアルライフ」を営む方もいます。特に金融、ITといった業務内容的に勤務場所はほぼ問われない、デスクワークや自らのスキルを活かした職種の方々がこのような生活を始めていたと言えます。

さらにより若い世代の場所を選ばぬ仕事に就く人の中には、マルチハビテーションのサービスを活用する人もいます。シェアリングエコノミーのビジネスモデルで、月額定額で全国の提携している住宅などに住み放題ができるサービスをADDressが提供し、話題を集めています。

つまりは、従来のような「住まいと職場」というモデル構造ではなくなってきたわけです。
住まいにも仕事場を設けながら、実際の都市部の職場に出向くこともあるわけです。さらに言えば、その住まい部分は単一ではなく、2つであったり、はたまた全国に点在する拠点を複数活用するというモデルであったりと、ここ数年で既に住宅と職場の関係は大きく変化を遂げています。

今回のコロナショックによって、このような従来とは異なる選択をする人が増えることは間違いないでしょう。しかし、地方では未だ旧来の企業誘致であったり、移住定住促進に固執している面も垣間見えます。東京か地方か、というような二項対立をベースにして住民を取り合うような構図ではなく、むしろ東京も地方も、という共住といった考え方のほうがこれからの社会に適していると考えます。

東京は一定の企業集積があり、その集積が合理性を生み出す面があります。一方で、集積することによって感染症などの拡大には不都合であるということ、また、そもそもそこまで集積しているところに毎日通勤するような必要性がないということが今回判明しました。それにより東京だけでなく、地方には自然環境や余る都市空間があり、それらが都市部の人たちにとっては希少性があることもわかったわけです。この2つの美味しいとこ取りをするほうが合理的であることからも、地方部を都市生活の代替案と位置づけるのではなく、補完案とし、地方を一括りにせず、山もあれば海もある、産業的にも特徴がある・・・とその違いに目を向けるべきなのです。よって、地方部も複数の地域が連動する形で、どのように都市部生活者に新たなライフスタイルを提案できるか、その提案力が求められていると言えます。

複数地域を前提としたオンラインによる迅速な住民票、納税、公共サービス制度へのニーズ

行政的な面で言えば、1つの世帯が持つ1年間の可処分所得を東京と地方とでシェアできるという構造が期待されます。これは所得が比較的高い都市部の世帯の購買力を地方に移管できるという意味では非常に重要な役割を果たします。

1年の3分の1の時間でも地方で暮らしてもらえれば、その期間中に生活に必要な消費は地元に落ちていきます。ただ問題は住民票です。今の日本では頻繁に移住することを前提として住民票の仕組みが組み立てられておらず、どこか1箇所に居住するという前提になっています。ですので、今後は複数地域を前提とした制度が求められるでしょう。

ただ短期的に言えば、もしも地方に住民票を移してもらい、住民税や所得税の支払いを期待するならば、オンラインによる手続きなど、サービスそのものを充実させる必要があると考えます。窓口に来ることを求められたりするのであれば、そこに住民票を移すことは大変面倒なことになりますが、オンライン対応が可能であればかなり敷居が低くなるはずです。

中長期では居住期間での税の分配や自治体間における公共サービスのオンライン化、また複数自治体においてサービスを利用できるようにするといったプランの提案も検討されて叱るべきでしょう。

新たな社会には「新たな仕組み」が必要

このように新たな住まい方、新たな働き方は、従来の生活様式を前提とした住宅やオフィス、そして税制などの仕組みのもとでは当然様々な不具合が出てしまいます。民間としては新たなサービスを立ち上げ、東京から地方へというよりも、東京も地方も、という需要に対応しながら、自治体も新たな住民サービスモデルを作り出す必要があるのではないでしょうか。

今までの仕組みのままでは、短期的な地方移住の盛り上がりで終わってしまうのが目に見えています。地方に人の流れを呼び込むことで生じる新たな経済成長に期待するならば、今こそ、新サービス開発と地方行政改革といった「新たな仕組み」へのニーズに応えるべきだと思います。

(「Glocal Mission Times」掲載記事より転載 )