コラム 全国

木下 斉

【アフターコロナ】緊急事態宣言緩和は「成長機会」を地方に生み出すか?

本連載では「アフターコロナの地方ビジネス」というテーマのもと執筆を行ってまいります。まず第1回目となる今回は、緊急事態宣言緩和による成長機会という包括的な話を追っていきます。

4月は緊急事態宣言が発令されたこともあり、全国的に自粛一色、新型コロナ対策とは理解しながらも経済的には非常に後ろ向きな状態が続きました。そして5月14日に39県における緊急事態宣言の解除が政府により発表されました。これを期に自粛一辺倒から、一定の経済活動の再開が可能となってきています。

21日に再度検討されることになっているものの未だ大都市規制が続く中、地方経済圏で規制が段階的に緩和されていくことは、すなわち地方部の方が経済復興が早く訪れる可能性が出てきたことでもあります。大阪のように独自基準を設け、いち早く規制の柔軟な運用を始める大都市も出てきており、今後はコロナ問題を抱えつつも緩和と規制を組み合わせていく知恵が求められています。何より東京一極集中が叫ばれてきましたが、東京が内需経済的には止まった状態で、他の地域が先に動けるようになるというのは、地方としては一つのチャンスでもあります。

さらに、人口密度が低く自然環境に恵まれる地方都市や地方農村部はソーシャルディスタンスを確保しやすい地域ともいえるわけで、中期的にも経済成長の可能性を秘めています。

地方が環境有利な理由

今回のコロナ対策では3密と呼ばれるように、人々が集まり、間隔がとれない環境が感染を広げる要因になるとされています。ソーシャルディスタンスの確保が容易な人口密度の低い地方都市と過疎化が問題になっていた地方農村部にとってはある意味、チャンスとも言えます。

これまでコンパクトシティ路線、密度勝負だった都市化路線から、密度の高い大都市とは異なる環境が残っていたことをどこまで強みにできるかがカギとなるわけです。実際に県庁所在地などの地方都市は、公共投資は厚い一方で人口は少ないため、相対的に恵まれた環境であるとも言えます。過疎化が問題となっている地方農村部などはソーシャルディスタンスの宝庫でもあり、その自然環境は人との距離を保てる空間=観光資源として、今後いかに活用できるかが問われています。

都市部では公園や河川などの限られた空間をどうにか活用する方向で都市計画が進んでいきそうですが、今後都市と地方の相互補完関係は一定期間強くなるでしょう。

見直されたアシモト経済

事業を共にしながら地方都市でビジネスを行う経営者たちと話をしていて、この一ヶ月で誰もが真っ先に口にするのが「思ったより地元のアシモト経済があるということを改めて認識させられた」という話です。これまでどうしても地方は人口減少などマクロのネガティブ要因もあることから、外向きの動きをとってきたけれど、あらためてテイクアウトやデリバリーなどのビジネスと向き合ってみると、地元にも消費力はちゃんとあるということを認識させられたというのです。
むしろ大きなモールとかの店舗は閉鎖で全く動かなくなってしまったけれど、元々事業をやっていた本店などの周辺住民は毎日何かしら買ってくれたりするというわけです。外向きの活動や展開ばかりではなく、むしろアシモト経済と向き合った事業をもっとしっかりやるべきかもしれないと気づきを得た方がそれなりにいます。

皆さんご存知のとおり日本のGDPの6割は内需で成立しています。地方都市部でも商圏人口は数十万人に達するところは少なくありません。日本は人口減少ばかりが叫ばれますが、未だ世界的にみても相対的に人口の多い国なのです。そういった“地元消費力”と真摯に向き合うことにまだまだチャンスがあることが、今回のコロナ対策を通してあらためてわかったということでもあります。

アフターコロナを迎えた中国の国内観光にも見える、地方自然志向と単価改善

今回深刻な打撃を受けた産業の一つとして、地方観光産業があります。こちらはデリバリーなどを行うわけにもいかないので、売上がほぼゼロになっているところも少なくありません。

ここ数年、地方はインバウンド観光に湧いていただけに、今回の国際間移動の制限は地方経済に極めて大きな影響を与えました。インバウンドだけでなく、観光産業で最も大きなシェアを持つ国内観光さえも停止してしまったことにより、地方経済は極めて大きな経済部門を失ってしまったと言えます。

とはいえ、いつまでもこの状況が続くわけでもありません。

NNAによると、一定の終息により国内観光旅行について条件付きで緩和を進める中国では、5月1日〜5日にかけての労働節における旅行者を1億1,500万人、観光収入は475億6,000万元と発表しています。例年と比較すれば6割減の水準とはいえ、逆に言えば4割は回復してきているとも言えます。またこれまでに見られなかった、自然観光などのソーシャルディスタンスが確保された環境での観光も人気とのこと。そのような傾向は台湾でも起きており、グランピングなどが人気だそうです。

【中国】労働節連休、旅行者は半減 安全優先で抑制、観光収入6割減(yahoo!JAPANニュースより引用)
https://news.yahoo.co.jp/articles/ddc011d29c9c6ccd7a0bbb4fdffd4b3d042b252d?utm_source=BenchmarkEmail&utm_campaign=5%e6%9c%883%e9%80%b1%e5%8f%b7&utm_medium=email

緊急事態宣言解除後の地方ではどのようになっているのか?豊かな自然環境で競争力のある立地のもと、地方観光業、宿泊事業、輸送業を営む企業経営者に話を伺ったところ、予約サイトのPVが回復傾向にあり、6月までは全くだめだが、7月以降は予約数が回復してきているとのこと。グランピングや自然系アクティビティなどは夏以降今の流れが続けば、入り込み数が改善していくことが予想できるでしょう。

中国の国内観光でも観光地は受け入れ制限を定めているということで、日本でも今後受け入れ制限などを設けて地方で一定のソーシャルディスタンスを確保できる環境のもと経営していくことも予想されます。ともすれば、地方観光は単価を一定引き上げていくことも可能になるでしょう。

過去の地方インバウンド観光でも問題だったのは、人数ばかりを追い求めて観光消費額への関心が二の次だったことです。ようやくポストコロナで人数を制限し、単価を引き上げても価値があると思われる地方観光と向き合えるとすれば、それは地方にとっては正しい道と言えます。 

都心企業のリモートワーク進展、若者の地方への関心の高まり

また、コロナ禍において都内企業のリモートワークは急速に進んでいます。既に都心部のオフィス賃貸解約や面積縮小の動きも見られ始め、リモートワークとオフィスワークを組み合わせながら、必要面積はセーブしていく方向に動くでしょう。都内23区内の企業において、社員一人あたりのオフィス費は月平均6.4万円とも言われており、これらを可能な限りセーブすると考えればリモートワークも好ましい方策であり、オフィス面積の削減はますます進んでいくことでしょう。

さらに就職情報会社「学情」が先月24日から今月1日にかけて行った、20代360名の転職希望者を対象としたインターネット調査によれば、地方への転職希望者が36%となり、2月の同調査より14ポイント多くなったといいます。

このように、リモートワークや地方志向は確実に強まっています。

課題は「経済への積極性」と「社会寛容」

このように外的要因をみれば、規制解除がなされる地域にとっては成長のチャンスでもあります。経営手腕の優れた地方経営者の方々は、既に伸びる領域、難しい領域を峻別し投資段階に入っています。つまり、ショックの後は成長のチャンスが確実に訪れるということでもあります。

一方で、地方ではこれまでも幾度となくこのようなチャンスはありました。直近でいえば東日本大震災当時、都市機能がストップしてしまった大都市よりも地方だと関心が高まったものの、結局はそのまま終わりました。これは、チャンスの時に地方が自ら積極的に投資したり、都市部の人材へ寛容になれなかったという要因があります。

今回のこの事態においても、地方にいけば高齢者が多く、時期的にも農作業などを副業でやっている方が多くいるため、「観光などで外から人を集めにくい」「批判されると地元で怖い」というような話を耳にします。アフターコロナ時代は衰退地域ほど可能性がある一方で、税金や年金で生活する方も多く、積極的な投資や経済活動の回復を急ぐより、自粛を最優先に、何も起こらないことを願ってしまうところがあるのも事実です。さらに言えば、一部の知事のように県外の人間に対して攻撃的な発言をしてしまったりする人もいるように、寛容性に欠ける姿勢を露呈してしまうことも散見されます。気持ちは理解できなくもないですが、中長期をみれば地元だけでどうにかなるわけでもなく、また都道府県という単位さえ経済行動をみれば無益なことが多い昨今、行政の線引きで排除を助長するような考え方を示すのは得策とは言えないでしょう。

コロナウイルスの影響でいつまでも人々が停止するわけではありません。既に地方から動きは始まり、都市部でも変化が生まれてきています。都市部だけでなく地方こそ変化できるかどうか、今まさに、チャンスをモノにできるかが問われています。

次回は、リモートワークによって変わる働き方と地方ビジネスの可能性についてお届けします。

(「Glocal Mission Times」掲載記事より転載 )