コラム 宮城

亀和田 俊明

【地方都市の魅力】宮城県仙台市 自然や生活環境に都市機能を誇る杜の都

近年、首都圏から地方都市への転職や移住をする人が増えているなか、移住者の方にとっては移住都市の環境や暮らしぶりなど地域の実情について具体的にイメージしづらいものがあるかと思いますが、これから半年間にわたって国内12の中核都市について「移住と暮らし」という視点からさまざまな都市の実態をお伝えしていきますので、地方都市への移住を考える上で参考にしていただければと思います。1回目は東北最大の都市「仙台市」です。

東北では温暖な気候で都市内外の交通アクセスに高評価

政府は4月7日に7都府県に対して「緊急事態宣言」を発令しましたが、16日には対象地域を全国へ拡大しました。不要不急の外出自粛要請により、さまざまな業態の店舗が休業を余儀なくされ、コロナ問題は地域経済に大きなダメージを与えています。宮城県仙台市においても公共施設の休止やイベントの自粛がされているほか、中心部の飲食店に加え百貨店・藤崎本店が5月6日まで休業するなど繁華街からは行き交う人の姿が消えています。

さて、第1回で取り上げる仙台市を抱えた宮城県は、ふるさと回帰支援センターの「移住希望地ランキング」では2019年には前年から一つ上昇して17位にランクインしていますが、ビジネスパーソンを対象に「快適な暮らし」や「生活の利便性」、「生活のインフラ」、「子育て」など8分野で調査した日経BP総合研究所がまとめた「住みよい街2019」で、仙台市は対象となった全国341自治体の中で42位、北海道・東北エリアでは札幌に次いで2位でした。

東北地方の中枢都市として人口109万人を誇る仙台市は、充実した都市機能を誇り、広瀬川や青葉山など自然が豊かな上に都心部には街路樹の多い青葉通りや定禅寺通りなど「杜の都」として知られています。また、「学都」という一面を備えており、東北大学をはじめとした大学など教育機関や研究開発拠点が集積し、研究・開発分野においても外部からの評価に高いものがあるほか、国連から防災の規範となる「ロール・モデル都市」に認定されています。

移住を考えた場合にその都市で生活をする上で重要なものの一つに気候があります。仙台市の1981年から2010年までの平均気温は下表のように12.4度です。この100年間で約2.3度の上昇がありますが、2019年は13.6度と上がってきています。「真夏日」と「真冬日」の合計日数は政令指定都市で最も少ないほか、東北地方の中でも積雪は少なく、冬でも比較的温暖なのも特徴で、年間平均降水量は1254.1mmとなっており、暮らしやすい気候といえます。

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(資料:気象庁資料を基に筆者作成)

一方で、公共交通機関は東北新幹線の全列車が停車する仙台駅から東京駅まで最短で90分、仙台空港へは中心部から電車で約20分と県外への交通アクセスも便利です。市内はJR各線と仙台市地下鉄の南北線や東西線が仙台駅を中心に延びて市内の移動はスムーズな上に鉄道を補完するように市バスが運行されているため、中心地では車がなくても暮らすことが可能ですが、郊外は公共交通機関が限られることもあり、保有自動車台数は約66万台と多いのが実情です。

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(資料:JR東日本HPより筆者作成)

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(資料:国土交通省調査より筆者作成)

2年連続で商業地の地価は2桁の伸び、住宅地も堅調

3月に国土交通省から発表された仙台市の公示地価は商業地が10.9%の伸びにより仙台駅周辺を中心に依然としてオフィス需要が活発で、2年連続で上昇率が10%を超えました。地価を押し上げたのは訪日外国人旅行者や「仙台一極集中」といわれる人口流入が背景にあります。アウトレットモールなど商業施設が充実しているほか、東北大学農学部の跡地ではイオンモールや医療・福祉施設、集合住宅など大規模な再開発計画が進んでいます。

住宅地では5.7%と前年に引き続き5%台の推移で、仙台市を中心に周辺のベッドタウンの市町村で大きく上昇していますが、市内では青葉区、若林区、太白区、泉区、宮城野区の順で、実に222ヵ所のうち213ヵ所で上昇しました。特に上昇率の上位10ヵ所では、大規模開発が進むエリアが半数を占め、前述の東北大跡地や仙台駅東口周辺などでマンション建設が相次いでいますが、子育て世代を狙った地下鉄東西線沿線も利便さが評価され、上昇しています。

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(資料:国土交通省資料より筆者作成)※カッコ内は前年実績

また、仙台市の約5万事業所、従業員数約55万人は政令指定都市で9番目の規模ですが、三次産業が約9割を占めます。事業所数の産業別構成比では、東日本大震災直後に落ち込んだものの、2015年には震災前の水準を上回った「卸売業・小売業」(29.1%)が最も多く、「宿泊業・飲食サービス業」(12.5%)が続きます。20政令指定都市では支店等の割合が最も高く、「支店経済都市」といわれる所以ですが、市内に本社を置く中小企業の割合は99.6%です。

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(資料:「平成28年経済センサス」より筆者作成)

仙台市では2015年度にGDPが5兆円を上回りましたが、規模を維持して生産性の高い産業を積極的に伸ばしていくために、市内の黒字企業の割合が50%(2017年度実績47.7%)を超えることを目指して下表の「7つの重点プロジェクト」ごとに評価指標を設定し、取り組みを進めています。このことが企業の収益増と市民の所得増を図り、雇用の創出を通じて東京圏への人口流出の抑制へとつなげることを目指しています。

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(資料:「仙台市経済成長戦略2023」を基に筆者作成)※目標値は2023年までの5年間累計値

上記のプロジェクトの中で、「ダイバーシティ経営による人材確保」では、若者の地元定着を促進するとともに、「高度人材等UIJターン促進」という施策があります。仙台市では地元企業の成長を促す即戦力人材の確保の観点から県や民間事業者等と連携し、地元企業の情報発信などを通じて首都圏のUIJターン就職希望者の掘り起こしを進め、求職者と地元企業とのマッチングを行うとしています。

子育てや暮らしに防災など移住者にも安全で安心な街

宮城県沿岸部で人口が減少するなか、仙台市では人口流入により人口が増加傾向にありましたが、2019年の転入者数は前年に比べ682人減少しているほか、転入超過数も630人縮小しています。1,349人の転入超過者のうち1,243人は女性という特徴もあります。東北地方には転入超過なものの、東北全域から集まった若者が同市を経由して首都圏に流出している状況もあります。2017年には東京圏への転出超過数が全国で最も多かったことがありました。

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(資料:総務省統計局の「住民基本台帳人口移動報告」などを基に筆者作成)

東日本大震災の2011年に合計特殊出生率は1.18に落ち込みましたが、2012年以降、1.3前後で推移し、2017年には1.26で子育て世代も増えるとともに子どものいる夫婦の共働きも年々上昇しています。そのため市内には、保育所なども下表のように開設され、小さいお子さんから中学生までの義務教育を受ける子どもたちの教育機関も十分に備えられていますが、保育施設数、入所・在園児童数ともに増加傾向にあります。

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(資料:「みやぎ移住ガイド」より筆者作成)

2015年に「仙台市すこやか子育てプラン2015」が策定され、子ども・子育て支援法に基づく「市町村子ども・子育て支援事業計画」及び次世代育成支援対策推進法に基づく「市町村行動計画として位置づけ、子どもの育ちと子育て支援に関する施策が総合的に推進されています。子育て応援まちづくりを標榜する同市では、待機児童解消に向けた取り組みが行われていますが、徐々に減少しており、今年は見込が7人ですが、実績数値が期待されています。

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(資料:厚生労働省資料より筆者作成)

2019年4月の医療施設数は1,585施設(病院・56ヵ所、一般診療所・927ヵ所、歯科医療所・602ヵ所)で、診療所を中心に増加傾向にあるほか、医師等の医療施設従事者も増加しており、特に看護師数(看護師・10,915人、准看護師・1,941人)の伸びに高いものがあります。高度救命救急センターとして重症や重篤な救急患者を受け入れる東北大学病院は、仙台医療センターと交代制で県内ほぼ全域に30分以内で着くドクターヘリの基地病院として活動しています。

2019年9月に発表された森記念財団都市戦略研究所が経済規模や文化度などを都市力として人口20万以上の国内主要72都市を対象に総合的にまとめた「日本の都市特性評価」によれば、仙台市は研究・開発、文化・交流、交通・アクセスが「安定した都市機能を誇る」都市として特に評価されたほか、生活・居住面で大きく飛躍したこともあり、昨年から順位を上げて7位にランクインしているといいます。

東北地方では気候が比較的穏やかで雪も少なく暮らしやすい仙台市は、市内並びに市外のアクセスに優れて通勤ラッシュの心配も少ないほか、東日本大震災の経験と教訓を糧に災害時の安全性でも強みをみせるとともに日々の暮らしに必要な機能がコンパクトにまとまり、子育てにも優しい街として安心できるといえます。企業誘致や起業支援にも熱心ですが、事業所の99.6%を占める中小企業の「人材不足」は深刻ですので、バランスの取れた仙台市は移住を考える際の有力な候補地の一つとして考えられても良いのではないでしょうか。

(「Glocal Mission Times」掲載記事より転載 )