コラム 全国

亀和田 俊明

「東京一極集中」の是正へ期待される移住支援制度

2020年も明け、20日に国会が開かれ、安倍首相による「施政方針演説」が行われました。そこでは、「成長戦略」に次いで、観光立国や農産物輸出とともに「地方創生」について長き時間を割いて方針が説明されました。前回は「関係人口」について触れ、次回は「副業」がテーマの予定ですので、今回は地方創生戦略のなかでも「移住」について考えてみたいと思います。

地方の創意工夫を1千億円の地方創生交付金で応援へ

地方創生の話題のなかでは、先ず7月から9月にかけて東京オリンピック・パラリンピックが開催されることから、安部首相は「ホストタウン」により地域の魅力を世界に発信することに触れたほか、国の文化財を積極的に活用できる制度を設けることで地域のアイデアによる観光地づくり、多言語、WiFi環境の整備など観光立国の基盤づくり、さらに外国人観光客の多様なニーズに応える宿泊施設など観光インフラを整えることなどについて演説されました。

そして、人口減少が続いていた島根県江津市で、若者の起業を積極的に促した結果、2018年に転入が転出を上回り、人口の社会増が実現した例を持ち出され、若者が将来に夢や希望を持って飛び込んでいくことができる地方創生の新しい時代を創り上げることに言及するとともに、地方の創意工夫を、1千億円の地方創生交付金で引き続き応援する旨を語りました。地方創生についての具体的な目標は以下のようなものでした。

■地方創生

・東京から地方に移住して起業・就業する場合に最大300万円支給する制度を使いやすく
・移住支援センターを全国1千の市町村に設置し、移住へのニーズを実際の人の動きへ
・地方での兼業・副業をうながすため人材のマッチングや移動費支援を行う新たな制度創設
・関係人口を拡大することで将来的な移住につなげ、転出入均衡目標の実現を目指す
・企業版ふるさと納税を拡充し、地方における魅力ある仕事づくりを一層強化
・まちづくりの基盤である地方の金融サービス・交通サービスをしっかり維持・確保

東京圏の転出入を均衡させることを目指しているものの容易ではありません。地域の人口は1990年代後半以降、二極化が進んでおり、東京圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)の人口増加が顕著で人口減少県では減少速度が拡大しているほか、仙台市を抱えた宮城県、広島市を抱えた広島県などいわゆる「札仙広福」という地域経済の中心的な県でも人口減少に突入しています。大阪府でさえ2010~2015年の人口は戦後初めて減少したといいます。

2000年から2015年の15年間で、地方の若者人口(15~29歳)は、約3割(532万人)と大幅減少していますが、「東京一極集中」の是正や地方の担い手不足への対処、地方での子育てなど移住者の多様な希望を叶えるため2018年に発表されたのが「わくわく地方生活実現政策パッケージ」でした。若者を中心に東京圏(一定の要件を満たす地域)からUIJターンによる起業・就業者の創出を2024年度までの6年間で6万人見込んでいます。

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(資料:総務省「住民基本台帳人口移動報告」2018年)

移住支援事業の対象者・対象企業を拡大する要件緩和へ

これは地方公共団体による全国規模のマッチングを支援するとともに、東京圏から地方への移住者の経済負担を軽減する「地方創生移住支援事業」や「地方創生起業支援事業」など地方創生推進交付金で支援します。そして、地域の重要な中小企業等への就業や社会的起業を行う移住者を支援する「移住支援金」と地域の課題に取り組む「社会性」「事業性」「必要性」の観点を持った起業を支援する「起業支援金」の二つの制度が新設されました。

「移住支援金」は東京圏からのUIJターンの促進と地方の担い手不足対策のためのもので、東京23区(在住者または通勤者)から東京圏以外へ移住し、移住支援事業を実施する地方公共団体がマッチング支援の対象とした中小企業等に就業したり、起業支援金の交付決定を受けた場合に都道府県・市町村が共同で交付金を最大100万円(単身は最大60万円)支給します。5年以上東京圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)で働く人限定の給付金制度。

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(資料:内閣官房・内閣府総合サイトより)

「起業支援金」の事業分野は子育て支援や地域産品を活用する飲食店、買い物弱者支援、まちづくり推進などの地域課題が想定され、事業立ち上げに向けた伴走支援と最大200万円が支援されます。東京圏以外の道府県または東京圏内の条件不利地域において社会的事業の起業や起業地に居住中、または居住予定などが対象となっており、地方へ移住して社会的事業を起業した場合には最大300万円(単身の場合は最大260万円)が交付されます。

なお、移住支援については厚生労働省の「移住者を採用した中小企業に対し、その採用活動に要した経費の一部を助成」や国土交通省の「移住者が住宅の建設・購入を行う場合に住宅金融支援機構が提供する住宅ローンの金利の引き下げ」のほか、起業支援についても中小企業庁の「設備資金及び運転資金について日本政策金融公庫の融資による支援」など各省庁との連携も図られます。制度の公表以後、ふるさと回帰支援センターへの相談件数も増えたといいます。

令和2年度予算において地方創生関連では、「地方創生推進交付金」1,000億円など合計1,052億円を計上しており、「特定地域づくり事業の推進」と合わせ1,057億円としていますが、今年度は東京から地方へ移住して起業・就業する際に最大300万円を支給する移住支援事業について対象者・対象企業を拡大する要件緩和を実施する予定といいます。これにより地方への移住・定着を一層促進するほか、さらに、地方移住のすそ野を拡大することを意図しています。

「ふるさと求人」サイト開設し移住者視点で情報提供

さて、2019年3月末に内閣府がヤフー、ビズリーチ、ディップ3社の民間求人サイト運営事業者と連携協定を締結したというニュースが報道されましたが、10月をめどに全国の転職情報を一元的に検索できる仕組みがつくられました。各道府県が政府の交付金で地方移住支援を目的とした中小企業等の求人サイト「ふるさと求人」」を立ち上げた後、3社の求人サイトとも連携させ、官民連携による移住者視点での情報の提供を行うというものでした。

1月22日にディップは求人情報サイトの特設ページを設け、26日現在16府県で約1000件の求人情報を公開しましたが、ここに掲載された地方の中小企業に転職すると最大100万円(単身者は60万円)が支払われます。今後は順次拡充し、42都道府県の1140市町村が求人情報を提供することになります。「ふるさと求人」事業は地方創生を掲げる政府が2020年度から始まる第2期の総合戦略に盛り込んだ目玉事業の一つです。

東京圏から地方へのUIJターンによる就業促進の流れをつくり、地方企業の担い手不足を補う狙いがあります。実際の移住希望について、2018年度に行われた内閣官房まち・ひと・しごと創生本部の「東京在住者の今後の暮らしに関する意向調査」では、東京在住者の約4割が「移住する予定」または「今後検討したい」と答え、移住希望は特に10代、20代の若い男女や40代の男性が高い結果であったことが明らかになりました。

「東京一極集中」の是正が思うようには進んでいないなか、前述のデータが示すように鍵を握るのは若年層であり、女性層ともいえます。地方圏から東京圏への流入の大半を占めるのも若年層で、女性は地方圏から首都圏に職を求めて出て来る人の割合が高いものがあります。特に高学歴の若い女性の都市間移動が顕著であり、地方圏においては東京圏への流出を防ぐ意味でも若い大卒女性のニーズを満たす対策が必要といえるのではないでしょうか。

地方圏に人を呼び込むためにはさまざまな施策を講じる必要がありますが、産業を育て、定住人口を増やすことが地方創生の最終目的であると考えるならば、地方圏では労働生産性を高めることに加えて、「働き方改革」に注力すべきといえるかもしれません。東京圏などの労働環境を上回れるよう、地方圏の企業は「働き方改革」や「子育て支援」などを率先して進めることが望まれます。そして、移住者のライフスタイルを満たすことも忘れてはなりません。