コラム 全国

亀和田 俊明

東京一極集中是正の強化策、「中枢中核都市選定」で地域の活性化へ

現在、若者を中心に地方圏から東京圏への転出が増え、2018年に東京圏は13万9868人の転入超過になっており、地方都市では人口減少や少子高齢化、若年層の流失という悩ましい課題に直面しています。東京一極集中の流れは簡単には止められませんが、地方圏でも中心地である県庁所在地など中枢中核都市に集中する傾向があります。今回は中枢中核都市を軸に地域の活性化について考えてみたいと思います。

地方圏は今後、地域経済の中心都市に人口が集中か

総務省の「国勢調査」によりますと1990年代以降、東京圏の人口増加が目立つ一方で、人口減少県では減少スピードが拡大するなど二極化が進んでいますが、宮城県、広島県、石川県などの地域経済の中心的な県でも人口減少に突入しています。2045年の将来推計人口を2015年と比較すると沖縄県と東京都以外の道府県は減少率が大きくなりますが、東京圏の人口は若干減少するものの、全国に占める人口の割合は3%上がって31.9%へと上昇します。

また、道府県庁所在地の多くで今後の人口増加率にかかわらず、当該道府県に占める人口割合(人口集中度)は今後急上昇すると見られますが、人口集中度の上昇は概ね三大都市圏よりも地方圏の県庁所在地の方が大きく、この現象は経済環境と潜在的な住民ニーズが結びついた帰結であり、今後も長く続く可能性が高いといえます。今後、都道府県内では地域経済の中心都市に人口が集中するとみられています。

「住民基本台帳」の人口移動データでは、東京圏以外の政令都市(15都市)や中核市の全ての都市が、対東京圏で転出超過となっている一方で、対東京圏以外では、転入超過が41都市、転出超過が21都市となっており、多くの都市が周辺から人口を集めています。政令都市のうち13都市については、対東京圏以外で転入超過となっていますが、特に札幌、仙台、名古屋、大阪、福岡では対東京圏以外の転入超過が大きいものとなっています。

国土交通省の資料では、今後の都市圏の変化では人口減少に伴い、三大都市圏を除く30万人以上の都市圏では、北海道の函館や旭川、帯広、苫小牧を始め、東北の青森や弘前、鶴岡・酒田、いわき、関東の日立、那須塩原、中国の鳥取、米子、周南、山口、防府、四国の丸亀、新居浜、西条、九州の佐世保、都城などの地方都市圏が人口30万人を維持できなくなり、2010年の61都市圏から2050年には43都市圏へと激減する見通しともいわれています。

さて、こうした地域人口の動きのなか、政府は2018年末に東京一極集中是正の一環として、経済活動や住民生活などで活力ある地域社会を支える拠点となる「中枢中核都市」を選定しました。これは周辺自治体も含めた圏域全体を活性化させる狙いですが、東京圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)や市外への通勤者が多く昼間人口が少ないベッドタウンなどは除かれており、政令指定都市や中核市、施行時特例市、県庁所在地、連携中枢都市から選ばれました。

(資料:総務省資料より筆者作成)

地域経済の中心を担う「中枢中核都市」に82市を選定

人口の東京一極集中を是正するため、地域経済の中心を担う「中枢中核都市」として政令指定都市の札幌や中核市の富山、施行時特例市の水戸、県庁所在地の津、連携中枢都市の高岡など以下の82市が選ばれました。2018年の東京圏への転入超過は13万9868人といいますが、今回の選定は中枢中核都市を軸に周辺自治体を含む地域を活性化させ、2020年時点での東京圏と地方の転入・転出を均衡させることを目標にしています。

(資料:「まち・ひと・しごと創生基本方針2019」より筆者作成)

各市が地域からの人口流出を食い止める新たな対策計画として、先端技術導入や市街地活性化などを作成して提出すれば審査の上、認定されれば財政支援が行われます。現在は支援先となる地方自治体の規模に関係なく、一律にしている地方創生推進交付金ですが、中枢中核都市向けの上限額を特別に引き上げるほか、関係省庁の合同チームによる政策提言などで取り組みを支援するともいいます。

中枢中核都市には、活力ある地域社会を維持するための中心・拠点として、近隣市町村を含めた圏域全体の経済・生活を支え、圏域から東京圏への人口流出を抑止する機能を発揮することが期待されています。そのため、①産業活動の発展のための環境 ②広域的な事業活動、住民生活等の基盤 ③国際的な投資の受入環境 ④都市の集積性・自立性等の要件が備わっていることが求められるとともに、東京圏への人口流出を抑止する役割を担うことになります。

国の産業育成やまちづくり支援で雇用創出・若者定住へ

選定された中枢中核都市には、地域住民が東京圏に行かなくても就業や就学等の実現を果たし、豊かな生活環境を享受できるよう圏域から東京圏への人口流出を抑止する機能を有する役割が期待されています。実際に地域経済の中心地である大都市がないと大学進学時に地元を離れる若者が多かったり、就職を機に東京へ流出する若者の数が多いというデータもあります。

さらに中枢中核都市の機能強化に向けて、共通に抱えている課題(政策テーマ)を対象とし、手上げ方式により関係省庁横断的な支援チームによるハンズオン支援を行うといいます。対象については、圏域から東京圏への人口流出を抑止する機能を発揮する中枢中核都市に重点を置き、政策テーマごとに対象都市を選定するといいます。「地域中核企業等の成長の促進」は経済産業省ですが、それ以外は内閣府地方創生推進事務局が中心です。

選定された都市からは国の支援による活性化効果に期待が高まる一方で、周辺の自治体からは中枢中核都市への人口流出で過疎化に拍車がかかり、存続が難しくなるのではないかと心配する声もあります。前述のように今後、都道府県内では地域経済の中心都市に人口が集中するとみられてもいるので、選定は周辺自治体も含めた圏域全体の活性化も狙いの一つであり、波及効果も大きいことから今まで以上に圏域内での連携も必要といえます。

また、支援を受けるには国に提出する対策計画が認定される必要があるので、国の意向に沿う形で計画を策定しなければなりませんが、東京圏への人口流出を抑制する機能の発揮、そして、地域の産業、経済の活性化を図り、若者が定着するような魅力あるまちづくりが期待されていますので、今回の全国82市の選定により中枢中核都市と国との連携が一層望まれるといえるでしょう。

(「Glocal Mission Times」掲載記事より転載 )