コラム 全国

亀和田 俊明

ウィズコロナ時代に関係人口で考える地方創生④ 新しい観光や働き方「ワーケーション」の可能性と期待

最近ではテレワークを活用しながら観光地や温泉地などで余暇を楽しみつつ仕事を行う「ワーケーション」という取り組みが新しい旅のスタイルとして関心を呼んでいます。各地の自治体からは地方創生につながる新しい働き方として期待が高まっていますが、矢野経済研究所の調べでは、2020年度のワーケーションの国内市場規模は699億円となる見込みで、2025年度には3622億円まで拡大すると予測しています。今回は「ワーケーション」の現状と事例などを交え、今後の可能性と関係人口について考えてみたいと思います。

ワーケーションを「してみたい」雇用型就業者は約4割

政府は2017年より東京オリンピック開会式が行われる7月24日を「テレワーク・デイ」とし、企業等による全国一斉のテレワーク実施を呼びかけ、働き方改革の国民運動を展開しました。在宅やモバイル、サテライトオフィスなど、さまざまなテレワーク、時差出勤にフレックスタイムが実施されましたが、テレワークの一形態としてリゾート地に滞在しながらIT技術を活用して働き、休暇を楽しむ新しい観光や働き方として脚光を浴びたのが、ワーケーション。

ワーク(Work)とバケーション(Vacation)を組み合わせた米国生まれの造語で、文字通り働きながら休暇を取る意味で、リゾート地などで短中期的に滞在し、リモートワークを活用して仕事を行う取り組みとして2000年前後に始まった米国では2010年ごろから徐々に広がり、現在では世界中で取り組まれています。企業のワークライフバランスの実現にも寄与するといわれるワーケーションは、コロナ禍の日本でも急速に浸透して注目を集めてきています。

先月、発表された国土交通省「令和2年度のテレワーク人口実態調査」で、新型コロナウイルス感染拡大に伴う働き方、住まい方への影響で、「ワーケーションの実施意向」を聞いたところ、雇用型就業者のうち、今後ワーケーションを「してみたいと思う」と回答した人の割合は約37%で、このうち、約半数の18.2%が滞在期間として1日~3日程度を希望していました。実施に当たっての不安・課題としては、会社にワーケーションが認められていないことでした。

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約4割の人がワーケーションに対して興味、関心を持っていることが分かりましたが、こうした動きを背景に、都市部から地方への人や仕事の流れを創出し、地方創生の実現へとつなげるべく、各省庁では、テレワークやワーケーションの推進に向けた取り組みが活発化しています。内閣府をはじめ下表のように観光庁や環境省、農林水産省などワーケーション事業を促進普及する省もあれば、総務省、厚生労働省などはテレワーク環境の整備や普及を推進するといいます。

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特に観光庁では、関連省庁や団体とも連携しながらワーケーションやブレジャーの普及に向け、企業及び地域の環境整備支援や企業と地域の関係性構築に向けた取り組みを行っています。今年度に実施される「企業と地域によるモデル事業」は、ワーケーションに関心の高い民間企業と地域を募集し、双方の体制整備とマッチングを行い、企業(送り手)と地域(受け手)の継続的な関係性の構築につなげるものといいます。

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出典:観光庁「新たな旅のスタイル」ホームページhttps://www.mlit.go.jp/kankocho/workation-bleisure/「実施形態(イメージ図)」(観光庁ホームページより)

全国178自治体がワーケーション自治体協議会に参加

テレワークの普及もあり、観光地に滞在しながらの新しい働き方として、ワーケーションには全国の自治体も熱い視線を向けています。特に長野県と和歌山県が積極的で、両県が全国の自治体に呼び掛け、2019年11月に全国的に普及させることを目的とした「ワーケーション自治体協議会」が設立されました。3月24日現在、1道21県156市町村の178自治体が参加していますが、コロナ禍で2020年に入って新たに参加する自治体が急増しました。

設立当時の「ワーケーション・スタートアップ宣言」では、以下の5項目が掲げられました。

■都市部の人口集中の緩和や地方への移住の促進
■異なる地域や企業間での協業を進めることでイノベーションを活発に創出
■人々の健康と生活の確保や雇用の促進などSDGsの実現
■長期滞在を通じた人口の創出拡大
■オリパラなどの大規模イベントにおける地域への人の流れの促進

ワーケーションについては政府が主導していることもあり、ここ数年で補助金を活用して地方では観光地などでインタネット環境の整備やサテライトオフィスの開設が行われてきました。特に今回の感染症のパンデミックにより年々増えてきていた訪日外国人旅行者が急減してしまい、観光産業を中心に地方経済は大打撃を受けていることから、下表のようにいずれの自治体も令和3年度の観光分野の重点政策として、ワーケーションを位置づけています。

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日本では和歌山県と白浜町が2015年からワーケーションの受け入れを推進し、白浜町にITビジネスオフィスを設け、民間企業を誘致してきましたが、2019年5月には三菱地所と提携し、「WORK×ation Site南紀白浜」が開業しました。国内において先駆的な取り組みを行ってきた和歌山県では、2017年に「和歌山ワーケーションプロジェクト」を開始していますが、2017年~2019年度の3年間で104社、910人が県内でワーケーションを実施したといいます。

制度を導入する企業と新ビジネス展開する企業の取組

わが国の企業におけるワーケーションは、有給休暇取得推進施策の一つとして2017年に日本航空が導入して話題となった後、少しずつ大手企業やIT企業へ広がってきています。日本航空では休暇目的という位置づけのもと従来のテレワーク規定を軸に労務管理や運用が行われました。2019年にブレジャー制度も導入しているほか、2020年には同社の社員が地域を訪れて社会貢献活動に参加する「New Normalな新しいワークスタイル」の実証実験も開始しています。

また、ユニリーバ・ジャパンでは、2016年から働く場所や時間を自由に選べる新しい働き方「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」を展開しているほか、2019年からは「WAA」が地域と親和性が高いことに着目し、「地域de WAA」も導入しています。自治体が指定する地域課題の解決に貢献する活動を行い、提携している宿泊施設の宿泊費が無料や割引になるなどの仕組みもつくったといいます。現在では、同社は全国で8つの自治体と連携しています。

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利用者(従業員)、企業や自治体などのステークホルダーとともに、上表のようにワーケーションには欠かすことのできない飛行機や鉄道など交通機関をはじめ、ホテル等の宿泊施設、旅行代理店やワーケーション施設展開の利用者を受け入れる企業、さらにワーケーションに関連するプラットフォームビジネスの企業など民間事業者もワーケーションの普及・促進に関わってきますので、一過性に終わることのない取り組みが望まれます。

ワーケーションを導入、推進するにあたっての大きな課題に企業の就業制度、労務管理の問題があります。労働時間管理や勤怠管理などのほか、労災保険給付に関する税務処理等の問題もあります。取得条件や適用範囲などを社内規則でルール化することが必要でしょう。また、従業員がワーケーションするには少なからず費用がかかるので、コストの問題もあります。福利厚生の一環として宿泊費や交通費などを補助する企業や補助する自治体もあるといいます。

送り手の企業の制度整備と受け手の地域の環境整備

前述の国土交通省の調査で、ワーケーションを実施できない理由として、「会社の制度上、行うことが認められていない」という回答が半数を超えていましたが、下表のように企業にとって導入は、国内外のリゾート地や帰省先、出張先などの休暇先で仕事をするという新たな働き方によって、従業員のモチベーションや生産性の向上につながるほか、休暇も取りやすくなり、旅行の機会や家族と過ごす時間が増えるというメリットもあります。

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働き方改革は単に時間を短くするのではなく、生産性が上がり、意欲を持って仕事ができる環境づくりが大切ですし、今後の働き方改革を示唆するワーケーションはそのような企業の取り組みに寄与することでしょう。2021年は、「ワーケーション自治体協議会」に賛同する自治体のように導入する地域も急増していくことが予想されますが、地方の自治体においては、受け入れ地域としての環境整備を進めていくことが、より必要になるでしょう。

今後は、ワーケーションを導入する企業の課題をクリアしていくとともに、観光地など受け入れ地域の自治体ではワーケーションを実施しやすい補助や施設などの環境の整備がより一層望まれますし、何より送り手と受け手の持続可能な関係づくりが重要です。地域においては、滞在する都市部人材の知見や人脈を活用して雇用や産業振興にもつながる可能性があります。早くも自治体間競争が生まれているだけに地域の魅力や発信も重視されます。

コロナ禍でのテレワークの普及に伴って企業や個人がテレワークを活用し、日常の職場から離れ、リゾート地などで通常の仕事を継続するワーケーションに関心が高まっていますが、地方創生の観点からもワーケーションにより人口減少に悩む地域への訪問や滞在など多様な形で地域との関わりを持つ都市部人材が増えることで、地域経済への貢献のみならず関係人口の創出が期待されると思われますので、今後の動向が注目されます。ワーケーションについては、改めて機会があれば、最新の事情なども含めご紹介したいと考えています。

(「Glocal Mission Times」掲載記事より転載 )