コラム 全国

亀和田 俊明

【関係人口】ウィズコロナ時代に関係人口で考える地方創生

2020年は世界中で新型コロナウイルス感染症が猛威を振るったために、約170万人の死者をはじめ約7800万人に達する感染者が発生し、世界経済にも大きなダメージを与えました。日本も例外ではなく、4月~6月期の国内総生産は年率換算で28.1%と戦後最大の大幅な低下となり、地域経済にも大きな影響を与えています。感染拡大が止まらず収束がみえないなか、仕事や働き方、住まい、暮らしなどポストコロナを見据え国民の意識や行動変容をもたらしていますが、注目されるのが「地方移住」など地域への関心の高まりです。今回から4回にわたって「関係人口」を軸に地方創生について考えてみたいと思います。

1万3千人超の転出超過で東京一極集中に是正の動き

今年5月からの直近半年間の東京都の人口の動きは、転出が転入を約1万3千人上回る「転出超過」となりました。2020年はコロナ禍により企業や大学でリモート化が進展したことなどから東京圏は転出超過に転じています。結果、地方創生を目指していた東京圏の転入超過数は2019年までは果たせていなかったものの、今春から東京一極集中に是正の動きがみられています。コロナ禍で地域への関心が高まり、郊外への転出や地方移住が進んだといえるでしょう。

総務省のまとめによると東京都の人口は新型コロナウイルスの感染拡大が続いた5月から10月までの半年間で転入が16万3023人だったのに対し、転出が17万5812人で、転出が転入を1万2789人上回る「転出超過」となっています。下表のように5月に2013年以降初めて「転出超過」となり、6月には「転入超過」に戻ったものの、その後、4ヵ月連続で「転出超過」が続いています。なお、転出先の約半分は神奈川県、埼玉県、千葉県など首都圏の3県です。

【東京都・月別人口の移動状況】9009_01.png (32 KB)(出典:総務省資料を基に筆者作成)

さて、2019年12月に中国・武漢で新型コロナウイルス感染症患者が現れますが、我が国では年が明けた1月15日に最初の感染者が確認された後、横浜港に入港した「ダイヤモンド・プリンセス号」での集団感染で対岸の火事とはいえない深刻な事態となり、その後、感染者が急増します。1月下旬からIT企業などが在宅勤務に切り替え、工場を稼働停止する企業も増えるなか、4月7日に「緊急事態宣言」が7都府県で発出され、16日には全国に拡大しました。

感染拡大に伴い、さまざまな業種、企業でテレワークが実施されましたが、コロナ禍で働く人の実に3人に1人がテレワークを経験したといわれます。感染防止策としてテレワークは緊急事態宣言が発出された春先に増えたものの、夏以降は実施率が伸び悩んでおり、東京都では12月1日~2月28日の3ヵ月間を「冬のスムーズビズ実践期間」と位置づけ、「新しい日常」において特徴的な働き方を実践する企業の取り組みを東京都のホームページで紹介しています。

【「東京都のテレワーク実施率調査」】9009_02.png (7 KB)(出典:東京都資料を基に筆者作成)

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、東京都の人口減少のほか、テレワークをはじめとした柔軟で新しい働き方の広がりや都心企業のオフィス縮小・分散化等の変化が生じるとともに、大都市の問題点も明らかになってきました。こうした変化を背景に地方移住を現実的に考える人や移住はしないまでも地域と関わりを持つ人が増えてきています。地方創生の目的でした東京一極集中の是正がコロナ禍を契機として、今後進んでいくものと思われます。

20歳代23区在住者が移住に関心、副業等の希望も変化

緊急事態宣言下で、国民に対して外出の自粛が求められたためにテレワークを実施する企業が増えたほか、対面ではないウェブ会議が普及し、新たな働き方が広がりました。内閣府の「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によれば、全国でテレワークを経験した割合は34.6%にもなり、その割合は東京圏で48.9%、23区では実に55.5%に上りました。地方移住への関心はテレワーク経験者の方が高いという結果に。

また、6月に実施された同調査の業種別のテレワーク実施状況について、「教育・学習支援業」の50.7%を筆頭に「金融・保険・不動産業」「卸売業」「製造業」「公務員」と続いています。「地方移住への関心」では、年代別では20歳代、地域別では東京都23区に住む者の関心が高まっているほか、職業選択や副業等の希望が変化したという回答が20歳代では5割を超えていました。感染症の影響下で収入減少やワークライフバランスの変化が関係したようです。

【「(就業者)職業の選択、副業等の希望の変化」】9009_03.png (24 KB)(出典:「内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」より」)

一方、経済同友会が10月にまとめた「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた今後の地方創生に関する」調査では、「新型コロナからの地域経済の回復や地域のさらなる活性化に向けた経済団体や都市部企業への期待」の質問に対し、「地方への本社機能の一部移転」を筆頭に「地方へのサテライトオフィスの設置」や「地方でのワーケーションの推進」など都市部から地方へ人や仕事を移すことに対する地方自治体からの期待・要望が多く寄せられています。

地方自治体の規模別でみると、政令指定都市や中核都市では、「地方でのワーケーションの推進」よりも「地方への本社機能の一部移転」や「地方へのサテライトオフィスの設置」に対する都市部企業への期待・要望の比率が高い傾向にあることがわかったといいます。なお、回答した地方自治体の半数強が、サテライトオフィスやワーケーションの推進、企業立地の拡大、域外からの移住者呼び込みに向け、追加や強化を検討している戦略や施策があるといいます。

【地方自治体から都市部企業への期待・要望(回答数上位5項目)】9009_04.png (17 KB)(出典:経済同友会資料より筆者作成)

実際に福岡県北九州市では、首都圏企業を対象に交通費や宿泊費が企業負担ゼロとなる「お試しサテライトオフィス実証事業」が行われています。社員が同市での生活環境やテレワークなど利点を生かした新しい働き方を体感することで、遠隔地からの労務管理や業務効率などを実証するもので、観光資源を活用したワーケーション的な利用を通じて首都圏からのサテライト拠点開設に向けた本格的な検討を促すものとして、多くの企業から問い合わせがありました。

地域住民も都市住民も相互補完的な関係人口で活性化

安倍政権で看板政策のひとつであった「地方創生」における令和2年度予算では、「地方への移住・定着の促進」をはじめ、「Society5.0の推進」「特定地域づくり事業の推進」と並んで「関係人口の創出・拡大」が重要な事業として考えられました。観光で訪れる交流人口でもなく、移住先を探している定住人口でもない、地域とのつながりの構築に必要な関係人口ですが、移住や定住につながらないとしても地域づくりには欠かすことができません。

【関係人口の創出・拡大】9009_05.png (24 KB)(出典:令和2年度「地方創生予算のポイント」より筆者作成)

東京圏への人口の過度な集中を是正し、地域で住みよい環境を確保し、将来にわたって活力ある社会を維持することを目的とする「地方創生」ですが、地域の発展には地域外からの視点は必要不可欠です。そこでは多様な関わりが望まれますし、地域外からの関係人口と地域内でその土地を盛り上げたいという人たちとの小さいながらも継続して地域と関わりを持つ動きや積み重ねが、地域づくりには重要といえます。 

関係人口については、内閣府の「令和3年度予算概算要求の概要」では、「新たな日常」が実現される地方創生においての『地方創生の推進』の項目に下記のような「関係人口創出・拡大のための対流促進事業」の予算が設けられています。関係人口の創出・拡大に向け、コロナ禍でも中間支援を行う民間事業者等による都市部住民と地域のマッチング支援などが実施されるようですので、さらなる首都圏人材と地域が多様な関わりを創出する取り組みが期待されます。

9009_06.png (41 KB)

官民による各種調査で20代の若い世代を中心に「地方への移住」に関心が集まっていることが報道されていますが、実際にも地方圏へ移住する人たちが増えています。東京一極集中の是正を掲げ、さまざまな施策を講じてきたものの、なかなか東京圏から転出超過になることがありませんでしたが、コロナ禍で感染症が都市部を中心に拡大したこともあり、皮肉にも東京圏などへの人口集中のリスクが改めて浮き彫りになって地方転出の流れにつながったのでしょう。

地方への移住や就業、テレワークやウェブ会議など働く場所を問わない新しい働き方が広く認知される至り、移住ではなく、副業・兼業やワーケーションといった多様な形で地域と関わりを持つ首都圏の人材が増えています。地域の担い手として活躍することにとどまらず、地域住民との交流がイノベーションや新たな価値を生み、地方とのつながりが構築され、将来的な移住者の増加にもつながることが期待されています。

次回からの3回にわたっては、首都圏の企業を中心に注目されている副業解禁、副業容認の流れ、首都圏人材の副業への関心の高まりから「副業・兼業」について、さらに、コロナ禍で場所を問わない新しい働き方などにより急増し、さまざまな施策が講じられている地方自治体における「ワーケーション」の実態などについても事例を交え、今後の関係人口について考えていきたいと思います。

(「Glocal Mission Times」掲載記事より転載 )