認定NPO法人ふるさと回帰支援センターがまとめた「2019年の移住相談の傾向、ならびに移住希望地域ランキング」によると、2019年は2018年に比べ同センターへの年間相談件数が約20%増加したそうです。相談件数の内訳を見てみると2年連続で20~30歳代の相談が5割超となっていますが、2019年は40~60歳代の相談者も増えているという特徴があるそうです。中高年の地方移住が増えているのは、どのような理由からなのでしょうか?
都市部に住みたい理由とは?
そもそも、多くの人が考える東京や大阪などの都市部に住みたい理由とは何でしょう?2018年に日本政府は民間機関に委託し、東京都在住の18~69歳までの男女1,200人を対象に調査した「東京都在住者の今後の暮らしに関する意向調査」をまとめています。その結果によると、東京都での暮らしの住みやすさとして以下のような点が上位になりました。
・交通の便がよい点(82.8%)
・買い物などの日常生活が便利な点(71.5%)
・コンサートや展示会などのイベントが多い点(28.1%)
・医療・福祉などの施設が充実している点(27.4%)
・レジャー施設や娯楽施設が多い点(26.5%)
・自由に暮らせる点(26.6%)
・満足できる職場や仕事がある点(23.3%)
交通の便がよい点や日常生活が便利な点は全世代に渡って上位となっているのですが、年齢層別の結果を見てみると住みやすさの基準が違っていることがわかります。男性の10〜20代ではレジャー施設や娯楽施設が充実している点、男女50〜60代では医療や福祉施設の充実、コンサートや展示会などのイベントが多い点、自由に暮らせる点などが上位になっているのです。
参考URL:東京都在住者の今後の暮らしに関する意向調査
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/pdf/kongono_kurashi_ikotyosa.pdf
増える地方移住
上記のような都市部に住みたい理由があるにも関わらず、冒頭でも書いたように地方移住の希望者は増えています。特に20~30歳代の相談が5割を超えている理由には、どのようなものがあるのでしょうか?2018年に一般社団法人 移住・交流推進機構(JOIN)が民間機関に委託して「若者の移住調査」をまとめたところ、移住を考える理由として以下のような点が上位となりました。調査対象者は、20~30代の既婚男女で地方への移住に興味がある500人。質問は「移住に興味がある理由を教えてください」(複数選択)です。
・山・川・海などの自然にあふれた魅力的な環境 (50.2%)
・子育てに適した自然環境 (33.4%)
・子どもの教育・知力・学力向上 (22.2%)
・医療・福祉などの施設が充実している点(27.4%)
・都会の生活に疲れた (18.0%)
・生活コストの削減 (16.0%)
加えて「地方への移住を妨げている大きな要因は何ですか」(複数回答)という質問に対しては、以下のような回答が寄せられました。
・移住先では求める給料水準にない (25.6%)
・田舎の人間関係が不安 (23.6%)
・どこから手をつけてよいのかわからない (21.2%)
・現在の仕事のやりがいが高い (13.0%)
・移住に向けた資金がない (12.2%)
まとめると、自然あふれる環境は子育てにも適していて魅力だが、移住先での収入と人間関係に不安があるという結果になるでしょうか。今回は20~30代の既婚男女が調査対象でしたが、人生で一番お金のかかる時期の移住は、魅力的ではあるもののハードルもそれなりに高いといえそうです。
参考URL:若者の移住調査
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/souda_chihou/h30-03-20-siryou4-5.pdf
なぜ中高年の移住が増えているのか
一方、2019年は40~60歳代の相談者も増えていると書きましたが、これにはどのような理由があるのでしょうか?20~30代の既婚男女が地方への移住を妨げている大きな要因として挙げた「収入」や「移住に向けた資金」については、子育てが一段落していればあまり問題にならないのかもしれません。
また、既にリタイヤの時期が近いのであれば「現在の仕事のやりがい」もあまりハードルにはならないように思えます。では、自然あふれる魅力的な環境が一番の理由なのでしょうか?
地方暮らしやIJUターン、地域との交流を深めたい人たちをサポートするNPO法人ふるさと回帰センターは、中高年の相談や移住が増えている理由を「今後の生活費に不安を抱えたシニア層による、生活コストを下げるための地方移住の相談が増えている」と分析しています。昨今のライフスタイルの変化を受け、将来設計を考え直す動きが中高年層で進んでいるのかもしれません。
では実際に都市部と地方では、生活コストにどれくらいの違いがあるのでしょうか?総務省が2019年にまとめた「小売物価統計調査(構造編)」によれば、全国平均の物価水準を100としたときの各都道府県(抜粋)の物価水準は以下の通りです。
・東京都 104.7
・神奈川県 104
・埼玉県 101
・千葉県 100.7
もっとも低い宮崎県は96、次いで鹿児島県96.3、群馬県96.6と続きます。またこれは物価水準の平均値ですが、もっとも格差が大きかったのは「住居」に関する項目で、東京都は鳥取県の1.62倍にもなりました。
まとめ
食料や高熱・水道、住居など、その種別によって差はあるものの、平均して都市部のコストは地方に比べて高いのが現実です。将来の支給額変動に不安のある年金受給を間近に控える世代としては、見過ごせない問題といえるでしょう。
移住先での人間関係構築なども考え、地方移住は早めに動き始めるのがよいのかもしれません。