コラム 全国

木下 斉

【アフターコロナ】地方における飲食業界の未来と新たな活路

今回のコロナショックで最も大きな影響を受けたのは、飲食産業といって良いでしょう。
観光産業という言葉はある意味総体的な名称で、観光では宿泊業と飲食業が主たる消費対象となり、さらに言えば、飲食店は全国各地に中小零細が多く点在している産業でもあります。これらの売上が一気に縮小してしまったことに対する影響は、今後地域経済にも大きく出てくることが予想されています。

コロナショックで大打撃を受けた飲食業界

日本フードサービス協会が推計した2018年外食市場規模は、25兆7,692億円となっており、その中でも「飲食店」の市場規模は、14兆3,335億円です。インバウンド観光客の増加を追い風にして成長していたとはいえ、一人あたりの外食支出額は減少しており、市場の競争は非常に激化していました。とはいえ、矢野経済研究所による2018年度のホテルの国内市場規模は2兆291億円とされていますから、市場規模として飲食市場が極めて大きいことがわかります。

飲食店.COMの4月時点での調査結果では、8割の店が「売上減」と回答し、内訳を見ても過半数もの店が30%以上売上を落としています。

このように業界全体が、コロナショックで壊滅的とも言えるダメージを負っています。またこれらの店舗は繁華街に位置しているものも多く、私が携わってきた地方都市中心部の市況に極めて深刻な事態を引き起こしています。特に緊急事態宣言解除後の戻りも極めて悪く、状況としては今後さらに厳しい結果と向き合わなくてはなりそうだと覚悟しています。

外食チェーンはファストフード以外は総倒れ

さらに、今回のコロナショックで明確化したのは、飲食チェーン、特に駅前居酒屋のような業態の大打撃です。近年、外食フランチャイズ店舗は急増しており、2015年度段階で約600チェーン、実に売上高は4兆円ほどになっていました。しかしどこにでもあるこのようなチェーンストアは近年急速に飽きられる傾向が強く、特に商品力が高いとは言えない店も多くありました。

これまでは有利な立地で皆で集まることができ、手頃な値段で飲み食いができるメリットで繁栄していたものの、そもそも飲み会という場がなくなった今回のコロナショックではそれらの店のほとんどの料理に魅力が無いことも判明しました。300円で店頭販売しているポテトフライも、実は冷凍食品を揚げているだけのものであり、それであればコンビニで同種の冷凍食品を100円で購入しても全く変わりません。駅前立地のスペースを活用できるから、その値段でも皆仕方なく食べていただけだったのです。飲食店というよりは、レンタルスペース+飯と酒、といった程度という実体が浮き彫りになり、自宅で食べるならばわざわざそのレベルの店の料理をテイクアウトしたり、宅配で頼まない。もしくは頼んだとしても、値段は相当に安くなければ嫌だという判断に当然なってしまいます。

結局、どこにでもあったり、はたまた予約そのものが取れないような店になってしまうと、顧客と店との間のエンゲージメントは下がり、「その店を応援しよう」だなんて常連客もほぼいなくなります。

このような結果、外食チェーンとして業績を伸ばしたのは、マクドナルド、ケンタッキー、モスバーガーというもともとテイクアウトも積極的に行い、近年オンライン対応も進め、さらにドライブスルーなどコロナ対策でも活用されるインフラを既に完備していたファストフード店のみという結果になりました。

(参考:外食企業「テイクアウト&宅配」で分かれた明暗 「勝ち組」外食チェーンにも残る宅配の課題 | 外食 - 東洋経済オンライン https://toyokeizai.net/articles/-/358521

上場企業7割が全店売上5割超減という状況ですから、既に西日本中心に展開しているファミリーレストランであるジョイフルが200店舗閉鎖、ロイヤルホストなどを運営するロイヤルホールディングスも2021年末までに不採算店舗70店舗の閉鎖を発表しています。まだまだこれからまとまった閉店など、各社リストラ策を強いられることになりそうです。

足元経済でのプレゼンスが高い老舗、常連客を大切にしてきた店は強い

その一方で、私のまわりの老舗飲食店などに話を聞いていくと、実は売上減はしたものの、1割程度にどうにか留まったという店もありました。それらの店は老舗で地元の人にとっても馴染みのある寿司屋。しかしながら当然店舗に来て食べる客は減ったこともあり、久々に新聞折込でテイクアウトのチラシを撒いたところ、「コロナで困っていると思って」という地元客が続々と注文を入れてくれ、結果限定的な売上減少で済んだといいます。テイクアウトを店に取りに来てくれた帰り際にお客様から言われた「頑張ってね」という一言には、本当に勇気づけられたそうです。「長く店をやってきて、お客さんから勇気づけられることなんてなかった、先代から暖簾を守ってきてよかった」と店主は語っていました。

また別の地方都市でミシュランの星もついているイタリアンのオーナーシェフも、「うちは常連さんが中心で、テイクアウトでの注文がすごく入ったから大丈夫だった」とのことでした。もともとが人気店ではあるものの、常連客の比率が高く、地方都市部も自粛となったことで自宅で楽しみたいという需要がそれなりに拡大したという背景があったようです。一方で同業者間での話を聞いても「予約が取れない店みたいなところは、とても苦しいね。常連さんが支えてくれるみたいなことがないから」という声が。足元経済でのプレゼンス、さらに常連客というロイヤリティの高い顧客を持てているかどうかが、今回のコロナショックでも命運を分けたと言えそうです。

これまではインバウンド観光客などの一見さん中心で伸びたり、はたまた利便性と低価格で勝負するチェーンストアなどがあったものの、今回のコロナショックはそれらの店に大きなショックを及ぼしました。その反面、地味ではあるものの地元経済での信用を積み重ねたきた店は危機の最中でも、生き延びて、さらに緊急事態宣言解除後も着実に客を戻し、前年比で100%超えになってきている店もあります。

今後リセットがかかり、さらにテラス席営業などの新たな業態開発が進む

とはいえ、まだ底を打っていないというのが飲食店市場の現状ではないかと思っています。地方金融機関系シンクタンクなどの研究員の方々と話している中では、政府支援が多く出ている現在は閉店、破産を決断していないものの、それらが切れる来年あたりには事業を断念するところが多く出てくるのではないか、という予測をしているという声も聞かれます。最悪の場合、地方都市中心部の、特に飲み屋街などは、再起不能の店舗が半数に登るのではないか、という意見もあります。

そういう意味では、飲食市場は一旦リセットがかかると考えています。地方都市中心部でもかなりの店の入れ替わりが出てくるものと思います。また私が開発に携わっている地方商業施設などでの新規出店の希望者の多くは、店舗面積を最小化し、テイクアウト中心の出店希望者がかなり多くなっています。このように既存店が減少し、新たな小規模なテイクアウト業態での出店などが短期的には増加するでしょう。

また違う動きもあります。国交省などが道路占用に関する特別許可の通達を出したことで、現状では商店街組織などがあるような都市部でのテラス席の設置が非常に行いやすくなっています。店舗面積を絞りながら、テラス席など三密が防げる客席で対応し、テイクアウトと合わせて売上を確保しようとする形式も出てくるでしょう。欧州各地には、同種の店舗内は非常に狭いものの、テラス席を中心に運営しているカフェ、ビストロは多く存在していましたが、日本においてもこのような業態が一定増加するものと思います。期間限定の規制緩和策が今後どの程度一般化するか、にもかかっています。

さらに言えば、公共空間活用、具体的には公園や河川を活用した飲食業態などオープンな公共空間をフル活用した業態開発などにも注目が集まるでしょう。大阪市大正区に開発されている河川沿いのTAGBOATなど先駆的な取り組みが国内でもいくつか出てきていますが、今後より一層都市河川を活用した新たな飲食業態開発などと向き合う自治体は増加するでしょう。何よりソーシャルディスタンス問題は深刻で、同じ店舗面積でも経営効率は少なくとも短期的には急激に悪化することとなり、家賃など含め店舗側の支払い能力が著しく低下していきます。ここを公共空間活用などで一定緩和することで、路面店舗などの事業性を補完する試みが不可欠となっています。

このように今回のコロナショックで非常に深刻な影響を受けた飲食産業ですが、むしろあしもと経済において地道に経営基盤を固めてきた店舗が再評価されているという実態も存在しています。さらに都市空間の在り方としても、ビルの中に押し込めるリーシングから、路上も含めて公共空間をより効果的に活用したオープンな店舗展開など、従来は規制などで制限を受けていたものが大きく変わるチャンスとも言えます。

ここから1年くらいの間は、今回の落ち込みを引きずりながら厳しい状況が続くと予想されますが、一方であしもと経済に即した経営をしてきた店にとっては回復が早く訪れるという実感があります。さらに公共資産活用など多様な都市空間活用の業態が出てくれば、都市の魅力作りにもつながっていくでしょう。またこれから新規創業を志す方にとっては出店先などの選択肢が広がったり、賃貸条件面での交渉が行いやすいなどといったチャンスもあります。

明けない夜はない。次なる夜明けに向かって動き出すものが、回復期のプラスを収穫できることは間違いありません。

(「Glocal Mission Times」掲載記事より転載 )