コラム 広島

亀和田 俊明

【地方都市の魅力】広島県広島市 働き盛りの移住者に人気の国際平和文化都市

5月に内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局が、地方移住の増加に向けた広報戦略を立案するために東京圏在住者の「東京圏以外の地域(地方圏)での暮らし」WEB調査等を実施したところ、東京圏在住者(20~59歳)の49.8%が「地方暮らし」に関心を持っていることが分かりました。地方移住への関心が高まるなか、どの地域、どの都市を選ぶか、12の地方都市について「移住と暮らし」という視点からさまざまな実態をお伝えしますので、地方都市への移住を考える上で参考にしていただければと思います。6回目は広島県の「広島市」です。

観光資源が豊かで工業・商業・スポーツが盛んな街

各地で新型コロナウイルスにより打撃を受けた経済の復興策が講じられていますが、広島市では売り上げが落ちた観光業を回復軌道に乗せるため、市が利用料を補助して市内のホテルや旅館など宿泊施設で利用可能な「プレミアム宿泊券」を発行します。第1期販売(広島県内)は6月25日に開始され、第2期販売(中国地方に拡大)は7月2日からになります。利用期間は6月25日から9月30日までで、額面が1万円券と5千円券の2種類が4億円分用意されます。

さて、広島市を抱えた広島県は、ふるさと回帰支援センターの「移住希望地ランキング」で2018年の6位から2019年に2位へ急上昇しました。瀬戸内ライフや新しい働き方、カープ移住、食をテーマにした移住相談会を開催するなど広島の資源や魅力を再確認しながら多様な暮らし方の提案、発信を行って来場者を増やし、20歳代以下でトップになったほか、全ての世代で5位以内に入り、幅広い年代へのアプローチが効果を上げているものとみられています。

広島市の南は瀬戸内海に面し、広島平野を囲むように西部・北部・東部は丘陵地帯が広がり、市内には6本の川が流れていることから「水の都」とも呼ばれる中国・四国地方最大の人口約120万人の政令指定都市であり、「国際平和文化都市」です。工業・商業も盛んで、ものづくりでは独自技術や製品を誇る「オンリーワン・ナンバーワン企業」の活躍が目立つほか、広島カープをはじめ同市を本拠地とするスポーツチームも多くあります。

沿岸部は中国山地の南側に位置することから年間を通して温暖で穏やかな瀬戸内海式気候で、降水量は少なく、年平均気温は高い特徴があります。広島市の1981年から2010年までの平均気温は下表のように16.3度で、2019年は17.2度と上がってきています。日射量の年平均値は 13.6MJ/㎡ ・日であるほか、日照時間の年間合計値は 2,042,3時間で、他の主要都市と比べても長くなっています。

8890_01.jpg (29 KB)

(出典:気象庁資料を基に筆者作成)

1993年に広島市内にあった広島空港が三原市に移転しましたが、国際空港として海外便が発着し、約300万人の乗降客数があります。広島駅から新大阪まではJR山陽新幹線で約1時間40分、博多駅まで約1時間10分と、関西、九州へのアクセスも良好です。沿岸部と山間部、東西南北ともに高速道路網が発達しており、広島市内から岡山市内、松江市内ともに2時間半、山口市内には2時間、松山市内は3時間です。

8890_02.jpg (22 KB)

(出典:国土交通省調査より筆者作成)

8890_03.jpg (27 KB)

(出典:国土交通省政策局資料より筆者作成)

広島市内の公共交通機関はJRと路線バスのほか、広島電鉄の路面電車があります。広島のシンボル的交通機関である路面電車が市内においては発達しているほか、新交通システム(アストラムライン)が中心部と市北西部に位置する広域公園前を結んでいます。郊外はバス移動が中心となりますが、バスは10社近くが運行し、市内の広範囲を網羅しており、利便性の高い交通環境が整備されています。

8890_04.jpg (25 KB)

(出典:国土交通省政策局資料より筆者作成)

ホテル建設・再開発による中心部の商業地が大きく上昇

3月に国土交通省から発表された広島市の公示地価は、商業地で新規のホテル建設やオフィスビルの建て替え等による再開発による中心部の伸びが追い風になって路線価も前年に続きプラスになっています。オフィス空室率が低水準で維持し、2年ほど前から都心部の幹線道路沿いの容積率が緩和されたことも上昇要因だといいます。「エキキタ」と呼ばれるJR広島駅北側の再開発が進んで利便性が増して割安感が高まったことが理由とみられます。

8890_05.jpg (18 KB)

(出典:国土交通省資料より筆者作成) ※カッコ内は前年実績

他の地方都市に比べれば訪日外国人旅行者も十分に多い広島市は、オバマ元大統領が訪問してから原爆ドームや近隣の安芸の宮島など欧米系の訪日外国人旅行者にとって注目度が上がりました。今まではホテル数もそれほど多くはありませんでしたが、今後、建設・開業ラッシュが控えているほか、地元企業の旗艦店や商業施設や本社・本店の建て替えなども増えており、2023年3月には「ヒルトン広島」の開業も予定されています。

8890_11.jpg (201 KB)

訪日外国人旅行者にも人気の高い原爆ドームと宮島行きの乗船場(手前右)

また、広島市の事業所数は約5万6千、従業員数は約58万人ですが、事業所数、従業員数ともに全国の市町村ランキングで9位、中国・四国でトップです。2016年の事業所数の産業別構成比では、「札仙広福」の4都市のなかでは広島市が三次産業の割合が最も低く約8割です。製造品出荷額(2014年)で主な産業をみると輸送用機械が54.7%、とウェイトが突出して高くなっており、生産用機械が14.8%で続いています。

8890_06.jpg (16 KB)

(出典:「平成28年経済センサス」より筆者作成)

広島市では「被爆100周年」の2045年に向け「誰もが集える、にぎわいと交流の都心“ひろしま”」という将来像が描かれています。同市は広島駅周辺地区と紙屋町・八丁堀地区を都心の東西の核と位置づけ、都市機能の集積・強化を図ることにより、相互に刺激し高め合う「楕円形の都心づくり」を進めています。こうした取組をより一層推進するため、都心の将来像や目指す姿、その具体化に向けた施策等を示す「ひろしま都心活性化プラン」を策定しています。

8890_07.jpg (149 KB)

(出典:「ひろしま都心活性化プラン」概要版を基に筆者作成)

8890_12.jpg (355 KB)

中四国地方最大の業務・商業ゾーンの将来イメージ図(出典:「ひろしま都心活性化プラン」)

子育て支援・環境も良く、ワーキングママをサポート

広島県の転出超過数を観ると8,018人で都道府県別で最も多く、前年に比べても1961人と最も拡大していますが、広島市も前年に比べ、転出超過数が559人増え1,220人に拡大しており、転出数の増加が課題となっています。同市では、移住・定住の促進や中小企業経営者の高齢化・後継者不足に対応した事業継承や業態転換の支援体制強化のため2016年より「地域課題解決ネットワーク」と連携し、相談体制の一層の充実を図っています。

8890_08.jpg (50 KB)

(出典:総務省統計局の「住民基本台帳人口移動報告」を基に筆者作成)

広島県は広島労働局と「しごとプラザ マザーズひろしま」を運営し、子育て世代の女性の就職をサポートする個別相談、保育所情報や職場体験プログラムを提供しているほか、「働く女性応援ハンドブック」の配布(ダウンロード可能)、子育て情報サイト「イクちゃんネット」、そして広島市では「ひろしま子育て応援アプリ」で支援情報を提供しています。なお、子ども医療費の補助は入院の場合、中学3年生まで、通院は小学3年生までです。

8890_09.jpg (19 KB)

(出典:広島市HPより筆者作成)

就学前の児童数が年々減少するなか、2020年4月1日現在の待機児童数は4年連続の減少となる33人でした。市は入園申込状況を踏まえ、直近の保育需要に対応したハード整備による受け入れ枠の拡大を進めるとともに、保育サービスアドバイザーによる情報提供など受け入れ枠を効率的に活用するためのソフト事業を実施するほか、保育士の安定的な確保に向けて養成校の学生が対象の就職支援、ICT導入等の取り組みを継続していくとしています。

8890_10.jpg (47 KB)

(出典:厚生労働省資料より筆者作成)

救急医療機関は、夜間は千田町夜間急病センターや可部夜間急病センター。広島市立舟入市民病院は24時間365日、広島市立安佐市民病院が日曜の夜間に救急診療を行っています。救命救急センターは県立広島病院、広島大学病院、広島市立広島市民病院、NICUは県立広島病院、広島大学病院等に設置されているほか、広島ヘリポートにドクターヘリ基地を建設し、広島大学病院と県立広島病院のフライト医師・看護師が常駐して要請に対応します。

森記念財団都市戦略研究所が経済規模や文化度などを都市力として72都市を対象にした「日本の都市特性評価」によれば、同市は総合ランクでは14位なものの、特に「研究・開発(研究開発成果)」面では7位、「文化交流(受入環境)」は8位、「経済・ビジネス」の雇用・人材と経済規模では9位と高い評価を得ています。実際に中国・四国・九州エリアでは12年連続トップという活発なビジネス環境を誇っています。

現在、広島市への移住を考える人の中心は30代から40代といわれていますが、豊かな自然があふれ、子育て・教育環境にも熱心な上に生活環境にも恵まれ、暮らしやすい街としても評価があるなかで、やはり就労の場が気になるところです。広島県は有効求人倍率も全国でも上位に入りますし、就労支援ばかりでなく、企業進出にもサポートを期待できる広島市は地方都市への移住を考える上で有力な候補地の一つといえるのではないでしょうか。

(「Glocal Mission Times」掲載記事より転載 )