コラム 香川

亀和田 俊明

【地方都市の魅力】香川県高松市 コンパクトでエコな四国の拠点都市

先日、就職情報誌「学情」が20代の転職希望者にインターネットを通じ、新型コロナウイルスの感染拡大の影響についてアンケート調査を行ったところ、「地方への転職を希望する」と答えた人が36%と、2月の調査から14ポイント上がりました。理由としては、「テレワークで場所を選ばずに仕事ができることがわかった」、「都市部で働くことにリスクを感じた」などが多かったといいます。地方移住への関心が高まるなか、どの地域、どの都市を選ぶか、12の中核都市について「移住と暮らし」という視点からさまざまな実態をお伝えします。4回目は香川県の「高松市」です。

穏やかな気候で、陸海空のアクセス可能な住みやすい街

香川県では5月14日に「緊急事態宣言」が解除されましたが、長引いた外出や営業自粛により飲食店なども売り上げの大幅減少に直面しています。香川県といえば、「うどん」が県民食であり、文化として知られますが、高松市で立ち上がった「讃岐うどんを絶対守る会」は、県内のうどん店を支援しようと前払い制の「うどん券」を発売しました。登録店舗は38軒あり、券の有効期限はコロナ終息後も店に足を運んでもらえるよう2022年3月末までの約2年間です。

さて、第4回で取り上げる高松市を抱えた香川県は、ふるさと回帰支援センターの「移住希望地ランキング」で2018年に17位、2019年には14位へと順位を上げています。特に40代は10位と上位です。一方で、全国のビジネスパーソンを対象に「快適な暮らし」や「生活の利便性」、「生活のインフラ」、「子育て」など8分野で調査した日経BP総合研究所がまとめた「住みよい街2019」の都道府県庁所在地別ランキングでは、高松市は25位でした。

高松市は全国一面積が小さい香川県のほぼ中央部にあり、南に讃岐山脈、東を屋島と八栗山、西を五色台で囲まれた県庁所在地です。山から海までなだらかに讃岐平野が広がりますが、市の北部は海に面し、瀬戸内海の島々を臨む美しい風景が広がっています。約42万人の人口を有する四国の拠点都市であり、国や企業等の出先機関も多く「支店経済都市」であるほか、海や山に島、街がコンパクトにまとまった都市です。

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空路、陸路だけでなく、フェリーで海からもアクセスできる高松

年間を通じて寒暖の差はそれほど大きくなく、穏やかな気候に恵まれ、晴天率が高いのが特徴。高松市の1981年から2010年までの平均気温は下表のように16.3度で、2019年は17.3度と少し上昇してきています。1 年を通して、気温は3度から32度に変化しますが、0度未満、または35度を超えることはほとんどありません。日射量の年平均値は 13.6MJ/㎡ ・日であるほか、日照時間の年間合計値は 2,053,9 時間です。

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(資料:気象庁資料を基に筆者作成)

高松駅からバスで45分の距離には高松空港、東京までは飛行機で約90分。本州とは瀬戸大橋で結ばれ、鉄道、高速バスが運行しており、JRで1時間ほどの岡山や2時間の大阪へも移動が可能ですし、松山や高知、徳島はいずれも3時間圏内です。また、四国横断自動車道が高松まで延長されているほか、市内の公共交通機関はJRと高松琴平電気鉄道(ことでん)、路線バス、高松港からは瀬戸内海の島々へフェリーでアクセスできます。

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(資料:国土交通省調査より筆者作成)

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(資料:JR四国HPより筆者作成)

四国の玄関口としての顔を持つ高松駅や高松港がある高松市は、市中心部を起点とした高松琴平電気鉄道(ことでん)が、琴平線・長尾線・志度線の3路線を有し、郊外へと放射状に路線を延ばしています。通勤・通学を中心に1日あたり約6万人に利用されており、地域の動脈とも言える鉄道です。現在は、持続可能なまちづくりとして「コンパクト・プラス・ネットワーク」の構築に向けた取り組みを推進する同市の政策において公共交通軸に位置づけられています。

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(資料:高松琴平電気鉄道HPより筆者作成)

住宅地・商業地ともに3年連続で上昇し香川のけん引役

3月に国土交通省から発表された香川県の公示地価は全用途平均で29年ぶりに下落から抜け出し横ばいとなりましたが、上昇は高松市のみでした。住宅地・商業地ともに3年連続での上昇でしたが、再開発によるにぎわい創出への期待や訪日外国人旅行者の増加によるホテル需要などが土地需要を高めてきたとみられます。なお、注目されるのは高松駅に隣接する空き地に新しい駅ビルの開発を推進するために、「高松駅ビル準備室」が設置されたことです。

高松市の転入者の分析結果によると、転入者は琴平線の高松築港駅から仏生山駅間の沿線を中心に幅広い地域に転入しているといいます。現在、中心市街地から仏生山地区までの琴平線においては線路の複線化事業が進められていたり、太田―仏生山駅間で新駅の整備が計画されているほか、中部東地域の地域交流拠点と位置付けられる同地区のまちづくり推進のために「高松市立みんなの病院」が2018年9月に開院し、地域交流センターなども2021年に完成予定です。

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(資料:国土交通省資料より筆者作成) ※カッコ内は前年実績

また、高松市の事業所数は約2万3千、従業員数は約20万人ですが、全国の市町村ランキングで事業所数は27位、従業員数では34位です。第3次産業が最も盛んで、第2次産業、第1産業と続くことで、産業構造のサービス化が進んでいる状況がわかります。第3次産業の中では商業都市・高松らしく、「卸売業、小売業」が最も多くなっています。

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(資料:「平成28年経済センサス」より筆者作成)

高松市では、令和2年度に誰もが支え、支えられる社会の実現に向けた地域課題解決の体制づくりなど地域共生社会の構築、そして、総合的な住宅政策の策定や交通ネットワークの再編などコンパクト・プラス・ネットワークのまちづくり、スマートシティの推進、さらに、創造都市・高松としてのまちの魅力や高松への愛着と誇りの醸成といった「第3期まちづくり戦略計画」登載の85の重点取り組み事業の積極的推進を図るとしています。

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(資料:「高松市令和2年度予算の概要」を基に筆者作成)

国土交通省では、「スマートシティ」を「都市が抱える諸問題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画・整備・管理・運営)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」と定義していますが、高松市は国内で初めて「FIWARE」によるIoT共通プラットフォームを構築し、産学民官による「スマートシティたかまつ推進協議会」と連携してデータ利活用による防災・観光・まちづくりなど各分野の地域課題の解決を推進しています。

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(資料:高松市提供)

生活・居住面、特に育児や教育で評価高く移住者も増加

香川県は、転出超過数は1677人で前年とほぼ同数ですが、高松市では下表のように2014年から見ても増減はあるものの、転入超過が続いています。なお、転入は男女ともに20歳代、30歳代が多くなっており、若い世代に人気の都市です。同市は移住及び定住を促進するために先輩移住者が中心となり活動する「たかまつ移住応援隊」を設置しています。魅力発信のほか、市民や地元企業と連携して電話やメールでの相談受付、移住に関するイベントなどを行なっています。

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(資料:高松市「住民基本台帳人口移動報告」を基に筆者作成)

移住検討者向けセミナーや移住者同士が情報交換できる移住者交流会も定期的に開催されているほか、「かがわ移住ポータルサイト かがわ暮(ぐ)らし」をはじめ、イベントや移住体験ツアーなどの開催情報は、移住サイト「高松市移住ナビ」でも随時更新されています。県外から高松市へ移住し、民間賃貸住宅に居住する世帯に家賃(最大1年間)や民間賃貸住宅の契約時に必要となる礼金等の一部を補助する「高松市移住促進家賃等補助事業」などもあります。

高松市には第2子以降の幼稚園・保育所の利用料無料や子どもの医療費無料(通院は小学校6年生まで、入院は中学校3年生まで)など、さまざまな子育て支援制度があるほか、子育ての悩みを相談できる専任職員「たかまつ地域子育て支援コーディネーター」は、中核都市で3番目(2018年)に多い各地域に点在する地域子育て支援拠点32ヵ所のうち4ヵ所に配置されており、遊びや講座、育児相談などが行われています。

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(資料:「かがわ移住ポータルサイト かがわ暮(ぐ)らし」より筆者作成)

2018年4月の待機児童数は高松市では下表のように62人でしたが、2019年4月には77人と上昇し、2020年4月には0人を見込んでいましたが、59人でした。保育所とこども園、幼稚園は2018年4月現在、市内に146ヵ所あり、幼保連携型子ども園への移行私立保育所の創設など、良好な保育環境づくりが進められています。また、支援情報や子育て施設の情報は、同市より委託を受けて運営されている、たかまつ子育て情報サイト「らっこネット」で閲覧できます。

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(資料:厚生労働省資料より筆者作成)

香川県の人口10万人当たりの救急病院数は4.9ヵ所で全国6位(2016年)で、急な病気やけがの際にも救急自動車の搬送所要時間も短く、充実した医療環境で安心できます。さらに、同県は全国初のICTを活用した全県的な医療情報ネットワーク「かがわ遠隔医療ネットワーク」を全国に先駆けて導入し、X線やCTなどの患者データを通信回線により伝送して地方でも専門医の助言を受けながら高水準の医療が受けられます。

森記念財団都市戦略研究所の「日本の都市特性評価」で総合ランクでは29位なものの、生活・居住面、特に育児・教育分野において2位と突出しています。自然や緑に恵まれ、近年は若い世代の移住者が増え、医療や教育も含め子育てしやすい環境が整った街といえますが、働く場の創出や地域の特性を生かした産業振興など期待される面もあるので、地方都市への移住を考える上でコンパクトな高松市も有力な候補地の一つといえるのではないでしょうか。

(「Glocal Mission Times」掲載記事より転載 )