今の仕事をこのまま続けていいのだろうか? もし転職するなら、勤務地はまた東京なのだろうか? ──人生でふと立ち止まり、思いを巡らす時間を持つことがある。東京ではない町へ移住し、仕事をする。これは、人生の中でかなり大きなライフイベントとなる。後悔しないためには、「なぜそこに住みたいか」の理由を明確にしておく必要がある。漠然としていた気持ちを固めていくためのステップをここで提示してみよう。まずは「条件編」だ。市町村まで範囲を広げると1冊の本が書けるくらいの分量となるので、ここでは「県」単位で考えていきたい。
第一条件:個人的な条件で粗選びする
自分のやりたい事、パーソナルな関係性など、個人に根ざした条件で目星を付けるのが、最も手っ取り早い方法だ。各条件に沿い粗選びした県を並べてみると、共通県が見えてくるだろう。
まずは第一の条件
1. 自分のやりたい仕事・転職したい企業がある県
2. 自分の出身県、配偶者の出身県
3. 友人が住んでいる県
4. 趣味が楽しめそうな県
5. イメージのいい県
1. 自分のやりたい仕事・転職したい企業がある県
地方転職に際して、肝心要の条件がこれだ。現在までのキャリアを振り返り、棚卸しして、やりたい仕事を定める。その上で全国を見渡し、やりたい仕事のジャンルで突出している企業をリストアップする。地方転職を推進する情報サイトなどを活用し、給与や条件などを調べておく。当メディアの姉妹サイト「Glocal Mission Jobs(https://glocalmissionjobs.jp/)」も地方企業の経営幹部求人を多数掲載しているので、ぜひ参考にしていただきたい。
2. 自分の出身県、配偶者の出身県
自分が生まれ育った県への転職、つまりUターン。両親の介護など、やむを得ぬ事情もあるかもしれないが、地方転職において「地縁」は大変多いケースである。やりたい仕事が故郷でできるのであれば、大きなモチベーションとなるだろう。また、配偶者の出身県には里帰りなどで一緒に訪れることも多いので、その県について実際に肌感覚で知っているはずだ。候補のひとつとなる可能性も高い。
3. 友人が住んでいる県
地縁ということであれば、この条件でのリストアップもできるだろう。学生時代の友人が現地で仕事をしているのだから、情報を得やすい。産業、経済、雇用などのほか、現地での生活費や教育費についても生の声を仕入れることができる。
4. 趣味が楽しめそうな県
東京に住んでいてはなかなか出かけにくい海や山が、地方ではすぐそばにあることも多い。アクティビティを楽しみながら仕事も頑張るというスタンスで探すのも大いにありだ。その他、自分の趣味の「聖地」に住んでしまうケースも少なからず見聞きしている。
5. イメージのいい県
行ったことのあるなしにかかわらず、どことなく「いいイメージ」を抱いている県は誰しもある。また、いいイメージ調査のランキング結果もマスコミを賑わせる。代表的なのが、ブランド総合研究所が毎年行っている「地域ブランド調査」だ。ちなみに、2019年のベスト5は、1位:北海道、2位:京都府、3位東京都、4位:沖縄県、5位:神奈川県。ワースト5は、43位:栃木県、44位:徳島県、45位:群馬県、46位:佐賀県、47位:茨城県。移住候補県をランキングに沿って決める人はまずいないだろうが、とりあえず参考まで。
出典:47都道府県の魅力度ランキング(「地域ブランド調査2019」(ブランド総合研究所)による)
第二条件:もう一段細かいチェック項目で絞る
第一条件の段階で住みたい県を複数粗選びできたら、さらに細かいチェック項目を設定して、絞り込んでいこう。仕事や生活に直結するさまざまな事柄をピックアップ。統計結果をひもとき、それらで上位に来る県を挙げていく。調べているうちに新たな条件を発見するかもしれない。それらをどう評価し判断を下すかは、個人によって変わってくるだろう。
1. 労働市場
自分のやりたい仕事が固まっているのなら、その業種・職種における求人状況を調べておきたい。都道府県別・職業別の有効求人数などは、厚生労働省の統計「一般職業紹介状況(職業安定業務統計):直近の雇用関係指標」で知ることができる。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/114-1d.html
2. 仕事環境
長距離通勤や満員電車に辟易していることが地方転職の理由であるなら、通勤時間は興味の上位に来るだろう。大都市圏のような公共交通網が張り巡らされていない地方は多いが、職住近接を実現できる可能性は高い。通勤手段は、自転車や徒歩通勤も視野に入ってくる。もちろん、自家用車通勤の場合も多いだろう。定期代ではなくガソリン代を支給されるわけだが、その算出方法は企業によってまちまち。転職希望先の人事部門へ確認しておく必要がある。
3. 生活環境
都会から地方への移住は、当然ながら生活をガラリと変えることになる。経済的側面では、住居費の変化がその最たるものだろう。地方の不動産価格が安いのは明らかだが、どの程度の物件がどれくらいしているのかを地元の不動産サイトなどでチェックしておこう。また、物価はどの程度なのか、日常の買い物は便利なのか、という点もポイントだ。
4. 子育て・教育環境
都市部で毎年問題となるのが、保育園の待機児童。地方に待機児童は少ないという声も聞くが、それはイメージに過ぎない。現実的に待機児童が深刻な問題になっている地方も多い。過疎化・少子化により保育園の数そのものが少なかったり、保育士が不足していたりという原因による。また、就学年齢の子どもがいる場合は、移住先の教育環境も大いに気がかりな点だ。その県の教育熱は高いのか、受験体制はどうなのか、大学進学率は……をチェック項目に入れておきたい。
5. 文化環境
東京や大阪など大都市圏には、美術館・博物館がごく普通に多いことを、地方移住した人は実感するという。手軽に文化に触れられる環境は、実は当たり前ではないのかもしれない。興味を持つ展覧会が巡回してくるかどうか、気になる方は多いだろう。また、音楽コンサートや芝居の公演に行きやすいかも、興味のある点だと思う。郊外のショッピングセンターにシネコンが併設されるケースも多いので、映画に関してはすぐに観に行くことはできる。しかし都市部に多い単館作品の上映となるとまた別だ。図書館の数なども含め、文化環境は移住に当たってひとつの目安ともなる。
次回は、「データ編」でさらに具体的なランキングを知ろう。
今まで漠然と「こんな地方に住みたい」と思っていたことが、こうやって条件を挙げていくとより現実化して見えてくるはずだ。次回、「データ編」では、ここで列挙した条件をさらに具体化させるためのランキングを紹介していく。もしかしたら、そこで「住みたい県」が決定できるかもしれない。