コラム 熊本

亀和田 俊明

【地方都市の魅力】熊本県熊本市 生活・居住面、特に医療・健康で突出した水の国

地方都市では人口減少や産業の衰退などの課題を抱えていますが、最近では首都圏から地方移住への関心が高まっており、特に経済・ビジネスや生活・居住・子育て環境など一定の条件を満たす中規模以上の都市が注目されています。半年間にわたり12の中核都市について「移住と暮らし」という視点からさまざまな都市の実態をお伝えしていきますので、地方都市への移住を考える上で参考にしていただければと思います。2回目は九州・熊本県の「熊本市」です。

晴れの日が多く、水源は地下水で交通アクセスも至便

現在、「緊急事態宣言」が発令されている熊本県熊本市では、行楽地や商店街は外出自粛の影響により時短営業や臨時に休業する店舗が多く閑散としていますが、4月24日に同市の大西一史市長が新型コロナウイルスの緊急事態宣言に基づく県の休業要請に応じた事業者に対し、1ヵ月分の家賃の8割を補助するという市独自の緊急支援策を発表しました。約1万店が対象で、営業時間の短縮に協力した飲食店にも支給されるといいます。

さて、第2回で取り上げる熊本市を抱えた熊本県は、ふるさと回帰支援センターの「移住希望地ランキング」で2014年に過去最高の6位にランクインしましたが、2017年以降は20位圏外となっています。一方で、森記念財団都市戦略研究所が経済規模や文化度などを都市力として72都市を対象にした「日本の都市特性評価」によれば、同市は総合ランクでは22位なものの、生活・居住面、特に健康・医療分野において5位と突出しており、高い評価を得ています。

熊本県の中央部、約74万人が暮らす熊本市は自然豊かな阿蘇や天草にも近い土地にあり、2016年の熊本地震からの復旧が進められている熊本城を中心とする街です。九州でも有数の多様な都市サービスを備えた政令都市でありながら「水前寺江津湖湧水群」「金峰山湧水群」の2ヵ所が環境省の「平成の名水百選」に選定された「水の国」とも呼ばれる市民の生活水道水を全て地下水が支えている世界的に稀有な都市です。

有明海に面しながらも山地や台地に囲まれる地形となっているために内陸盆地的気候により寒暖差が大きいですが、熊本市の1981年から2010年までの平均気温は下表のように16.9度で、2019年は17.7度と上がってきています。2018年には年間を通して「快晴」の日が35日、「晴れ」の日が188日と3分2は天候にも恵まれ、日射量の年平均値は 13.6MJ/㎡ ・日であるほか、日照時間の年間合計値は 2,001.6 時間で、他の主要都市と比べても長くなっています。

8833_01.jpg (29 KB)

(資料:気象庁資料を基に筆者作成)

九州の中央に位置するため、九州新幹線の全列車が停車する熊本駅から博多駅までは最速32分、鹿児島中央駅までは最速42分と短時間でアクセスが可能な上に新大阪駅までも乗り換えなしで約3時間。さらに自動車保有台数約40万台の車社会の熊本市ですが、九州縦貫自動車道等や都市間バスも発達しており、九州内での移動も便利な交通の要衝といえます。また、熊本空港へは中心部から車で約40分、熊本空港から羽田空港まで最速1時間30分程度です。

8833_02.jpg (22 KB)

(資料:国土交通省調査より筆者作成)

8833_03.jpg (27 KB)

(資料:JR九州HPより筆者作成)

熊本といえば路面電車が知られており、2系統5路線が運行され、熊本駅前の電停から全路線が中心市街地とアクセスでき、利便性の高い公共交通、環境に優しい乗り物として、街のにぎわいや観光振興にも貢献しています。運賃も均一の大人170円(子ども90円)でリーズナブルなこともあり、昨今は訪日外国人旅行者にも人気でしたし、2014年10月からはJR九州の数々の列車のデザインで著名な水戸岡鋭治さんの「COCORO」も運行しています。

8833_04.jpg (27 KB)

(資料:熊本市交通局HPより筆者作成)

住宅地が7年連続、商業地は5年連続で公示地価が上昇

3月に国土交通省から発表された熊本県の公示地価は全用途の平均変動率は+1.9%と3年連続で上昇しましたが、2019年9月に開業した日本最大級のバスターミナルを含む複合施設「SAKURA MACHI Kumamoto」や店舗・ホテルの新規開業も相次ぐなど熊本市中心部ににぎわいが生じ、この伸びが全体を押し上げた結果といえます。同じ中心部のアーケード街地区とともに周辺の地域も上昇率が伸びており、同市としては商業地が5年連続となる上昇でした。

住宅地は熊本市と市近郊が全体を引き上げ、平均で+1.1%で、前年を0.1ポイント上回りました。最も上昇率が高かったのは3年連続で中央区大江の7.4%で、同地区は近年マンション建設により人口が増加しているエリアです。中央区は行政やビジネスの拠点であるほか、医療や教育、文化施設をはじめ熊本城や水前寺成趣園、西日本最大級のアーケード街も有する市の中心地でもあります。同市としては7年連続となる1.5%の伸びでした。

8833_05.jpg (18 KB)

(資料:国土交通省資料より筆者作成) ※カッコ内は前年実績

また、熊本市の事業所数は約2万6千、従業員数は約30万人ですが、事業所数では全国の市町村ランキングで20位、九州では福岡県の福岡市、北九州市に次いで3番目です。2016年の事業所数の産業別構成比では、「卸売業・小売業」(27.9%)が最も多く、「宿泊業・飲食サービス業」(11.6%)、「医療・福祉」(8.8%)などの第三次産業が盛んですが、半導体産業・輸送機器産業等の大規模製造業や情報通信関連産業等の企業も多く集まっています。

8833_06.jpg (16 KB)

(資料:「平成28年経済センサス」より筆者作成)

熊本市では、令和2年度も熊本地震からの復旧復興として129事業に最優先で取り組む意向であるほか、復興と同時に進めていく「上質な生活都市」の実現に向けて「安心して暮らせるまちづくり」「ずっと住みたいまちづくり」「訪れてみたいまちづくり」を柱とする下表のような327事業の「まちづくりの重点的取組」に市民と行政で共有し、優先的に取り組んでいくとしています。

8833_07.jpg (141 KB)

(資料:「熊本市令和2年度の予算ポイント」を基に筆者作成)

同市は令和2年度予算の中で地域経済のさらなる活性化に向け、重点課題である創業支援、人材確保・育成等の一層の強化を図り、復興需要が落ち着いた先の地域経済を支える新たな需要の創出に向けた取り組みを推進するとしています。その中には人材不足解消に向けて、移住者への支援のほか、連携中枢都市圏で移住促進プロモーションを行い、東京圏等からの人材還流を促進させるための取り組みも充実させる「移住促進による雇用対策」も掲げられています。

子育てに優しく、災害に強いまちづくりを進める街

2019年に熊本県は転出超過数が拡大していますが、熊本市は転入者数が25,684人、転出者数が25,561人で2017年に続いて前年の転出超過から123人の転入超過へと転じています。なお、女性が17人のマイナスで5年連続の転出超過になっているものの、男性は前年の転出超過から140人の転入超過へと転じています。

8833_08.jpg (50 KB)

(資料:総務省統計局の「住民基本台帳人口移動報告」を基に筆者作成)

熊本市は政令指定都市の中で出生率が3位ですが、結婚・妊娠・出産・子育てに関する役立つ情報を掲載する「熊本市 結婚・子育て応援サイト」を運営し、病児・病後児保育施設や保育施設の空き状況などの情報を提供しています。また、安心して子育てと仕事の両立ができる、働きやすい職場環境の整備を進める企業を「子育て支援優良企業」として認定し、子育てしながら働きやすい環境づくりを推進しています。

8833_09.jpg (19 KB)

(資料:「2019グラフでみる くまもと」より筆者作成)

人口1万人あたりの保育所数が政令指定都市では2位で、2016~2018年度にわたって待機児童数ゼロを達成しており、2018年4月の待機児童数も熊本県全体では182人なものの、熊本市では下表のように0人でした。2019年に6人と増えましたが、2020年には再び0人を見込んでいます。また、認可外保育施設利用料の一部について支援を行う「待機児童支援助成事業」を行っています。

8833_10.jpg (42 KB)

(資料:厚生労働省資料より筆者作成)

日赤発祥の地である熊本県ですが、熊本市は人口あたりの病院数は政令指定都市で1位を誇り、開業医をはじめ大学病院勤務医や医師会病院勤務医が協力して診療にあたる「熊本方式」で、24時間365日対応できる救急医療体制も整備されています。また、ドクターヘリと防災消防ヘリが相互に役割を補完し四つの基幹病院が連携する「熊本型」ヘリ救急搬送体制を構築しています。ちなみに、平均寿命は政令指定都市で男性1位、女性は2位です。

現在、熊本駅は商業施設やホテルが入る地上12階の駅ビルとオフィス系の駅北ビルの2棟の建設工事が5月6日まで一時中断されています。駅ビルは2021年春、北ビルは今年12月の開業を予定していますが、開業時期が遅れる可能性も出てきています。2018年3月に新幹線口と白川口がつながり、高架下に「肥後よかモン市場」が誕生。安藤忠雄氏設計でデザインされた熊本城の石垣の「武者返し」をイメージした黒を基調に壁が反る在来線の新駅舎も2019年3月に完成するなど駅周辺の開発が進み、新たなにぎわいを呼ぶ核として期待されています。

「水の都」や「森の都」とも呼ばれますが、川も多く、豊かな自然にあふれているほか、子育て環境や生活環境にも恵まれ、暮らしやすい、住みやすい街として高い評価を得ていますし、熊本地震から4年が経過し、災害に強いまちづくりにも取り組んでいるほか、駅周辺や中心部にもにぎわいが生じています。また、創業支援や人材確保、成長産業の支援などにも熱心で、地方都市への移住を考える上で熊本市は有力な候補地の一つといえるのではないでしょうか。

(「Glocal Mission Times」掲載記事より転載 )