大学卒業後総務省に入省し、現在は神奈川県庁にて政策調整担当部長と未来創生担当部長を兼務している脇雅昭さん。
そんな多忙な本業の傍ら、47都道府県の地方公務員と中央省庁で働く官僚のコミュニティ「よんなな会」を主宰、毎回数百人もが集まる交流会を運営しています。
一体、どんな背景で「よんなな会」を立ち上げようと思ったのか。そして地方と都市部の両方を知る立場から、“出会いの場”づくりに懸ける想い、そして地方創生を成功させるポイントについて、お話を伺いました。
(インタビュアー:株式会社日本人材機構 高橋 寛/GLOCAL MISSION Times編集部)
「よんなな会」設立の背景にあった、 “笑顔を広げたい”という想い
高橋:よんなな会とは、その名の通り47都道府県の地方公務員と中央省庁で働く官僚をつなげることを目的とされた会とのことですが、脇さんがそれを主催しようと思われたきっかけは何だったのでしょうか。
脇:いろんなことが重なっていますが、最も大きいのは熊本県庁への出稿での経験です。入省後、一年目は地方自治体に出向する人が多いのですが、僕が行ったのは熊本県庁でした。そこですごくたくさんの人に出会わせてもらいました。
地方に息づいている人たちと同じ釜の飯を食べながら、同じ県庁の仕事をしました。その結果、総務省に戻った後も、法律や条例をつくる時に敢えて一歩踏み込んだ質問をぶつけたり、本音で語り合える関係ができました。そこに、すごく大きな価値を感じたんです。
総務省に戻って僕が配属された部署はメンバーの約半分が地方から出向してきた人たちで、まさに僕とは逆のパターン。しかも、出向者は、将来地域を牽引する期待を背負っています。東京でどんな経験をするかは非常に重要です。そんな彼らに、何か恩返しができないかと思ったのが、よんなな会のきっかけでした。
僕たち公務員のミッションは社会課題の解決ですが、行政だけでは解決できないことがたくさんあります。課題解決のために、新たな価値観に出会うことはすごく大事で、言い換えれば、どういう人と仲間作りをするかが大事です。東京の強みは、いろんな人に出会える環境があること。ならば、東京にいる間にいろんな人たちと出会える場を作りたいというのが、よんなな会を始めた背景にある想いです。
今回お話を伺った、よんなな会 代表 脇 雅昭さん
「いいね!」の肯定力が、人を前進させる
編集部:よんなな会の趣旨は、ちょっと元気がなくなって日常の仕事に疲れてしまっているような方を、同じ立場でありながら元気にやっている方々の想いに触れることでまたもっとやろうと思ってもらう、そんな場づくりということでしょうか?
脇:僕も含めて人ってそんなに強い生き物じゃないので、意志を貫くのは無茶苦茶しんどいことだと思います。世の中よくしたいという人はたくさんいますが、逆に世の中悪くしてやろうっていう人はあんまりいないと思います。だけど、圧倒的に多い前者の人たちも、普段の“当たり前”の環境の中で、考え方を左右されて行動できない状態に陥っている気がするんです。
僕の周りには、新たな気づきを与えてくれる人がたくさんいます。そして、突拍子もないこと、“当たり前”ではないことにも「いいね!」と肯定してくれる仲間がいるので、前に進めています。その安心感と信頼感は絶大なパワーになります。
だから、たとえ明確なビジョンを持っていなくとも、熱量高く行動している人に対して「いいね!」と言ってあげること自体がすごく意義のあることだと思います。自らアクションを起こしている人も大事ですが、僕たちが本当にすべきことは、思いはあるけど行動に移せていない人に「いいね!」と言ってあげることだと思います。
高橋:地方転職を望む人の中には、幹部として地方企業の再生や地方創生に貢献したいという志を持った方もいますが、都会の先の見えない環境に疲れてしまい、地方へ安堵を求めてくる方も結構な数見受けられます。会社と家庭だけに閉ざされていると、「いいね!」と肯定されることもなく、ただひたすら目の前のことをこなすだけの人も多いのではないかと感じます。仕事と家庭以外の、第三の場所をつくってあげることが、この時代においては大事なんだと思います。
脇さん:僕も以前は総務省を辞めたいと思っていましたが、外の世界の人たちと触れた結果、考え方が変わったからです。民間企業への転職も考えましたが「お前みたいなヤツは民間にはいくらでもいるよ。でも、行政の中にはもっと必要だと思うんだ」と言われて、自分の価値に気づけたんです。行政の中にいることこそが価値。どの世界に行ってもやっぱり嫌なことはあるし、この立場でやれることはまだあるはずだと思うようになったんです。
もちろん、僕のように留まることが正解とは限りません。いずれにしても、外の人、様々な価値観と触れ合うことで、納得感のある選択ができると実感しています。
編集部:よんなな会は地方公務員に限らず、民間の方も参加しているのですか?
脇:運営スタッフとして民間の方も入っていますが、数百人が集まるような規模の会は、基本的に公務員と学生だけが参加できます。一番価値を届けたいのは公務員です。
行政の力だけでは社会課題を解決できない一方で、行政が担っている役割が非常に大きいことは、僕自身、行政で働いている中で強く感じています。
その行政を動かす役割を担っているのが公務員で、日本では338万人います。それは人口の約3%。彼らの志が1%上がるだけで、世の中が良くなると信じています。
高い志を持っていたのに、仕事に忙殺されるあまりに仕事の意義や志を見失ってしまっている公務員に向けて、自分たちの仕事の価値を再認識してもらえるような場にしたいと考えています。
誰でも来て良い場所にしてしまうと、本来の目的が分からなくなってしまったり、営業行為が始まったりしてしまうので、心理的安全性の担保としてよんなな会の参加者は公務員と学生に絞っています。
ただ、本来的には、官・民など関係なく、その肩書きをどう取っ払うかが大事です。そこで、公務員が集まるよんなな会だけでなく、民間の人たちも参できる分科会も開催しています。もはや民間だけの会もあり、よんなな会の定義はすごく広がっています。
たまたま僕が公務員だったから、公務員の可能性に気づいただけであって、当然それ以外にも可能性の塊は無限にあると思います。分科会はみんなから募集したアイディアがきっかけになって、お坊さんたちの集まり「よんななお坊さん会」みたいなのも生まれています。良いアイディアを一つひとつ形にしていったら、どんどん広がっていった感じなんですけれども、本当にいろんな切り口があると思っています。
人とつながる秘訣は、「好きな人」を広げていくこと
編集部:人とつながりたいと思っていてもその術がない。何かつながって実感を得たいんだけれども、どうしていいのか分からない人たちも多いですよね。うまく人とつながっていく秘訣ってどんなところでしょうか?
脇:コミュニケーションが苦手で、人とのつながり方がわからないという人は、自分が安心できる場所をつくるのが近道だと思います。僕はよく「コミュニケーションお化け」と勘違いされるんですけれども、そうでもありません。誰も知らない会に行くと、端っこにいます。
知らないところ、新しいコミュニティに勇気を出して踏み出しているわけではないんです。あくまで、自分の好きな人をつないで居心地のいい空間を作っているだけなんですよね。居心地のいい場所には、さっきの「いいね!」と一緒で安心感があります。
つまり自分でコントロールして、好きな人を呼べる場をつくるんです。初めの頃は、自分の友達同士をつないでいました。次第に仕事で出会っていいなと思った人を招待するようになりました。社交辞令はなくて、次に会う日程を具体的に設定するため、主催する飲み会はどんどん増えました。その積み重ねで、関係性を築いていきました。
集まってくれる人たちは、大好きな人ばかりですし、全員顔が見えているので、とてもあたたかい場所なんですよね。その中にいる、波長が合う人、好きだと思える人とつながることで、何かが起きるかもしれないと考えています。
地方や海外での友達のつくり方も一緒です。たとえば、facebookで「今度富山に行くので素敵な人がいたら紹介してください」と呼びかけると、友達の友達で一気に輪が広がります。つないでくれた友達の話で盛り上がったりして、すぐに仲良くなれるんです。それが「信頼の連鎖」だと思います。
知らない場所に飛び込むのは勇気がいりますが、信頼できる仲間を頼ったり、好きな人をつなげていくことで、繋がりは広がると思います。
高橋:脇さんが主催されているコミュニティに参加されている人たちも、そういう形でつながって、広がっていっている感覚はありますか?
脇:よんなな会への声掛けは、ほぼ人伝いなんですよね。500人規模の会でも、25人が20人に声をかける仕組みです。幅広く知らない人に届けるのではなく、20人の顔が見える人に価値を感じてもらい、その人たちに自分の言葉で友人・知人を誘ってもらいます。
あくまで体感した人の熱量が大事なので、「よんなな会とはこういうものである」という定型文みたいなものは用意していません。それに、僕が考える以上に、この場の価値は多様で、無限に広がっているので、一つの言葉で定めてしまうのはもったいないという気持ちもあります。それよりも、それぞれの人の価値観や感性を通して見えた良さを、それぞれの言葉切り口で伝えてもらった方が価値は何倍にも大きくなる。「あなたに来てほしい」という想いを自分の言葉で表現することが大事で、人の心を動かすというのは、そういうことだと思ういます。
今の5000人が集うよんなな会を見ると、「あんなの絶対にできない」と言われますが、実際は目の前の一人ひとりをつなげているだけです。その価値を一人から二人へ、二人から三人へと広げているだけで、実はとてもシンプルなことなんです。
ポジティブなエネルギーと求心力が、「地方創生」を加速させる
高橋:地方創生法が施行されてからかれこれ5年以上が経ち、行政の主導のもと地方創生推進交付金などを活用しながらあらゆる取り組みが行われています。よんなな会を主催されている脇さんならではの見え方があるのではないのかと思うのですが、そもそも地方創生について、どう思われていますか?
脇:補助金も大事だと思いますが、100万円があったとして、どう使うかは人によって全然違いますよね。だからこそ、そこで最も重要なのは「人」だと思います。誰が取り組むかによって、地方創生に向けたクリエイティブのかたちは全く違うものになると思います。
一番やらなければいけないことは、個人の繋がりを増やし、一人ひとりの志や能力を高めることだと考えています。繰り返しになりますが、それこそがよんなな会を続けている意義なんです。
でも、人のやる気は見える化できるわけではありません。だから、どこに向かっているのか問われた時は「笑顔」と答えています。モチベーションが上がっている状態は、少なくとも笑顔になっているとき。そういう抽象的なことを、真正面から言うことが大事だと思っています。
高橋:モチベーションが上がり笑顔が全国各地に広がっていけば、自ずとお金の使い方も良くなり地方創生が加速していくのではないかと。
脇:たとえば自分の地元にちょっと足を運んでみるとか、そういうことから始めるのがすごく大事なのではないかと思います。でもその時には絶対に誰かを頼った方がいいです。
「風と土」という言い方をする人がいますが、外から来る人「風」と、地元をちゃんと回してくれる人「土」のどちらも大事だという考え方です。外から来る人はすぐに「土」にはなれないですよね。一方で、なる必要もないと思っていて。そこでちゃんと組める人を見つければいいと思います。
「こんにちは!」っていきなり訪ねて、つながるっていうのはかなり難しいと思うので、誰かが間に立ってくれているというのは、やっぱり大きいですよね。そのためにはたまたま出会った人と良い関係をちゃんと築いていくこと。そうすればきっと、その人も自信を持って紹介してくれるはずですから。そこから良い連鎖が生まれ、どんどんすごい人に出会えると思うので。だからまずは、ご縁があった人に全力で向き合うことが、一番なのかなって。縁が引き寄せる力はすごいと、僕は身をもって実感しているので。
「よんななハウス」を今後オープン、地方に関わる人とリアルにつながる
高橋:地方へ行くことがものすごく高い壁のように感じてしまう根源の一つとして、「よそ者感」というのがあります。そこでポイントとなるのが、いかに地方の人たちとの身内感をつくっていけるかなのですが。
脇:身内感を作るという意味では、都会にいながら地方の人と出会う場所が重要になるかもしれません。そういう意味では、僕たちが都内にオープンした「よんななハウス」も一つのモデルケースになりうるかもしれません。
よんなな会は年に数回、数百人規模の人に直接土日を使って集まってもらっていますが、よく考えると、毎日地方から東京に出張で来ている公務員の人たちはたくさんいるんですよね。彼らの行動の延長線上にいろんな人たちと出会える場をつくれたら、出会いの場をイベントではなく、日常化できます。そんな思いから、よんななハウスをスタートすることにしました。
主役は、地方から出張などで東京に来た人。その人に紹介したい人を、個別に声をかけて招待しようと思っています。たとえば、宮崎の観光関係の方が来たら、宮崎出身で想いを持っている人や観光業で何かを起こしたいと思っている人、あるいは宮崎に移住したいと思っている人など、頭に浮かぶ人に声をかけます。そのご縁の積み重ねが、リアルな人の移動につながる一歩になると思います。
新型コロナウイルス感染症によって、よんななハウスでのリアルな集まりにも制限がかかりました。その間に、オンライン会議が身近になり、出会いのハードルは大きく下がりました。一方で、オンラインで簡単に繋がれる時代だからこそ、人と人が直接リアルな場所で顔を合わせることの重要性も再認識されてきていると感じます。よんななハウスも、換気や消毒などの感染症対策も徹底した上で、東京に出張で来た全国の公務員や東京にいる想いある人が、肩書関係なく、フラットに繋がれる場所として、運営していければと考えています。
利他の気持ちが地方へ目を向けるきっかけになる
高橋:最近、「地方副業」というテーマに力を入れ始めていますが、「地方転職」とは手の挙がり方がかなり違います。かつ、目的がお金ではなく、圧倒的に“利他”なんです。自分の適性をどこかに還元したいという想いが強い人が多いように見えます。
脇:ビジネスに邁進してきた人たちが地方でチャレンジを考えているのは、すごくいいことだと思います。学生とはまた違う価値を持つと思うんです。経験を持った夢追い人というか。キャリアを捨ててでも地方でチャレンジしたいと思う人たちは、利他的な人なのかもしれませんね。捨てるというとネガティブな響きになってしまいますが、言い換えると、キャリアを生かして新しい世界へ飛び込んでいこうということです。それだけの経験値と行動力を持ち合わせているすごい人なので、課題を抱えた地方企業のオーナーや、地域の課題を知っている公務員が結びつくことで、予想もしなかったような価値が生まれるかもしれません。
高橋:今、地方転職を積極的に考えられない人にどう地方へ興味を持ってもらうか試行錯誤していて。地方転職後のキャリアだったり、地方ならではの良さについてリアリティをもって想起させていかないと、移住、転職までいかないと感じています。先ほどの副業の話も、リアルで接点を持つ場というのが必要で、一度その地に足を運ぶと魅力を肌で感じてもらえるんです。その傾向が非常に高いので、先ほどの「よんななハウス」は面白い取っかかりになるような気がしています。
脇:地方に少しでも興味を持ったとき、誰も知らない現地に行く前に、まず現地の公務員と仲良くなることができればいいですよね。個と個でつながって、「一度来てみてくださいよ」って言われたら嬉しくないですか?そんなことが生まれる場所にできたら面白いかもしれないですね。
高橋:たとえばよんななハウスを訪れた宮崎の自治体の方に対して、宮崎にルーツがある都心のビジネスパーソンを我々からご紹介する、なんてこともできそうですね。宮崎在住の方からリアルなエピソードを聞けるだけでも、すごくありがたいことだと思います。
その地域に知っている人が1人生まれた瞬間からその街に興味が湧くし、ゼロだったら永遠に未知のまま。もちろん情報としては“マンゴーが美味しい”とかっていうのがあったとしても、自分の暮らす場所として本当に決め手になるかというとならないですよね。だからそういう出会いの場があるっていうのはすごく大事だと思います。
脇:公務員は利害がないのでフラットに魅力を伝えられると思います。かつ、移住してほしいとは思っているので、いい感じでニーズがマッチするかもしれないですね。
編集部:地方転職を考える人って3パターンぐらいに分かれていて、1つは単純にIターン、Uターンって自分の地元へ帰る、2つ目が、特定の観光資源があるとか、「いつか北海道に暮らしてみたい」とか、観光地的な憧れ。3つ目で意外に多いのが地域を限定せずに「地方全体」を視野に入れる人なんです。ただそういう人はやっぱり、そうは言ってもいよいよいよいよ転職が現実味を帯びてきたときに、その街の魅力や暮らしのイメージが掴めずに、それがハードルとなって尻込みしてしまいがちなんですよね。
そこでその地に息づく魅力的な人と出会える機会があれば、「あの人がいる街のあの仕事なら」と真剣に考えられそうなそうな気がします。
誰かを知る安心感とリアルを知る人がいるっていうのはすごく大きいですよね。
脇:何個もタッチポイントが増えていく。関係性がある限りずっと続いていきますよね。よんなな会もそうなんですけど、Facebookで広く告知しても何も刺さらないんですが、直接その人に「来てくださいよ」って伝えると、今回は行けないけど次回行こうかなって言う人が出てくるんです。それに近いかもしれません。Facebookなどで誰でも情報発信できる時代だからこそ、不特定多数に向けられたメッセージは届きづらくなっている。そういう時代だからこそ、あなたにFor Youの力っていうのはとても強いし、いろんなところで役に立つと思っていて。人が何にワクワクするのか?多分大事な原点はそこにあると思います。
脇 雅昭(わき まさあき)さん
神奈川県政策局未来創生担当部長 兼 政策局知事室政策調整担当部長。よんなな会発起人。1982年生まれ、宮崎県出身。2008年に総務省に入省。入省後に熊本県庁に出向、2010年に本庁に戻り、人事採用、公営企業会計制度の改正を行う。2013年から神奈川県庁に出向。広く深い繋がりを生かして「よんなな会」を主宰し、国家公務員と47都道府県の地方自治体職員を繋いでいる。